この夏日本アパレルを襲う「HIGG Index」と間違ったD2Cの解釈が起こす悲劇

河合 拓
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一般的に言われるD2Cアパレルのメリットは簡単に論破可能

ben-bryant/istock
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ここで、調達の商社を外すか外さないかなどは、差別優位性に何の関係もない単なるコスト競争にしか過ぎない。日本のアパレルは99%が5億から100億の中小企業の集まりで、そのまとめ役が商社。したがって、規模の経済が効かない中小企業は大企業のコストメリットに太刀打ちさえできないわけだ。ジワジワと国力が低下し、所得も減り続けている日本市場の「コロナ」の次の世界では、商社外しは中小企業を孤立させ、従って、高コストによる「死」を意味し、現金回転率の低下による運転資本の毀損とデジタル・クラウドの乱立による、日本のデータの海外流出、および、流通コストの膨大な増加という問題を引き起こしている。

すでに販売サイドでは、アパレルメーカ(製造業)は、自社ECをもっているところが多く、「顧客と近づくことができる」など意味不明な説明なのだ。以下、ある有識者の書いたD2Cのアパレルメリットだが、なぜこうした非論理的説明を不思議に思わないのか、それほどアパレル産業の構造が理解されていないのか謎だらけである。アパレルD2Cの以下の説明に私の反証を記載しよう。

①収益性が高い
D2Cの大きなメリットは、メーカーが商品の開発・製造から販売までを自社で行うため、収益性が高いこと。

商社外しで調達コストが下がる、自社ECだと手数料がかからないという理屈だが、典型的な「PL脳」(損益計算書しかわからない)だ。自社EC開発による初期投資、また初期的自社EC立上げの顧客獲得コスト、CPA舐めている。まともに、自社ECを無名ブランドが立ち上げれば、数十億円のCPA(顧客獲得コスト)が、かかることは本連載でも説明したとおりだ。

②売り方の自由度が高い
自社ECサイトでの販売であれば、独自のマーケティングやキャンペーンを展開し、消費者との関係性を構築できるメリットがある。

すでに、多くの企業が自社ECを立上げ、キャンペーンを山のようにやっており、反応がないからクーポン券を乱発している。しかし、客が集まらないし売上が上がらないからZOZOや楽天に出店せざるをえないのである。だから、私は10年前に拙著で、「後発企業のEC戦略」と称して、様々な成功事例と枠組みを紹介した。

③顧客データを収集・蓄積できる
販売業者を介する場合に比べて、多くの顧客データを収集・蓄積しやすいこともD2Cのメリットです。

これも、自社ECやハウスカードを持っている企業はすでにビッグデータを持っている。ファッションビルに至っては、クレジットカードで膨大な顧客データをもっているし、百貨店も有力テナントに顧客データを公開し始めた。しかし、現実はそのデータ活用ができていないことが問題で、貯まったデータは未だ眠ったままになっている。

 このように、デタラメといったら失礼かも知れないが、巷に溢れるD2Cアパレルのメリット定義は、今のアパレルの現状に合わないものが多く、冒頭のHIGG Indexのような極めて戦略的アプローチとは、雲泥の差があると私は思う。産業界に関係ない方にこうした議論をしかけてみると、「ここまで違うのか」とため息をしていたほどだった。それほど、欧州のSDGs対応、米中のデジタル戦争に対し、日本が誇れるものは何もない。もはや残された時間は無い。今、私にできることは、じっくりアパレル、商社、小売、工場の方を集め、研究会を立上げ、事実と論理でディスカッションを行って、正しい事業戦略を意思決定者が持てるような取り組みをはじめることだけだ。

 

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「DXとD2CによるESG経営」研究会
応募/お問い合わせ先: Info@ifi.or.jp

TEL:03-5610-5701  担当:碓井

 

番外編・バングラデッシュからのメールを紹介しよう

 

本連載「百貨店向けアパレルが、今すぐ無駄なコストを10億円以上減らす方法」で私は、「うちは、商社や工場にヘッジしており、展示会サンプルも現物と同じ値段しか払っていない」と言っているアパレル企業に対して、「研究開発費相当を原価に乗せているだけだ」と説明したが、そのことを裏付けるメールがバングラディシュから届いた。アパレル企業の方は、自前主義も結構だが、こうした分析に裏付いたデジタルSPAをもう一度学んでもらいたいと思う(メールは本文ママ)。

私はバングラデシュのセーター工場(バングラ資本100%)にて日本向けオーダーを担当しています。貴殿のWeb上に記載された文章。「うちは、商社や工場にヘッジしており、展示会サンプルも現物と同じ値段しか払っていない」という人もいるが、あまりにもビジネスというものを理解していない。」に全くの共感をしたのと、もう少し付け加えたい事が有りまして、メールさせていただいております。私の居る工場はヨーロッパ(EU)向け75%、日本向け25%で5年以上前まではEU向け100%でした。

(1)EUと日本では大きく違うので日本向け費用は高くなります。それはサンプル作成費用がEUの1.6-2倍かかるからです。なぜならサンプル作成回数(日本の仕様書がいい加減)がEUと日本向けでは1.6-1.8倍日本向けが多くなります。これに伴いクーリエ(航空出荷費用)が上乗せされます。
(2)日本向けサンプルは費用が回収できない事が多々有ります。このFOBが目標より高いと他社にオーダーするので、サンプルを作成した工場は全く費用回収ができません。EUのオーダーは最初にFOB計算依頼が有ります。4~5社にFOB計算を依頼し最適な工場にオーダーを発注します。発注を受けた工場はサンプル作成をします。これでサンプル作成後、オーダー無しという現象は有りません。サンプル費用もバルクオーダーで回収できます。
(3)以上の事からサンプル作成費用を日本向けはEUの1.6-2.0倍見ています。


いかがだろうか。みなさんが、「うちは、ヘッジしてますよ」という無意味なサンプルが、自社のコスト増に繋がっており、山のように残った反物とサンプルなどをSheinのような中国企業が安価に買取り、世界で大儲けしているという冗談のような構造を想像いただきたい

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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