新型コロナの影響で大きな打撃を受けるアパレル業界だが、「部屋の中でもおしゃれでいたい」という巣ごもり需要が追い風となり売上を伸ばしているのがマッシュスタイルラボ(東京都/近藤広幸CEO)のルームウエアブランド「ジェラート ピケ」。2021年度の売上は前年比135%と堅調に推移し、商品開発や異業種コラボにも積極的だ。
武器は圧倒的な幸せ感
ジェラート ピケは、“大人のデザート”をコンセプトにしたルームウエアブランド。ジェラートはイタリア語でアイスクリーム、ピケはフランス語で生地の意味を持ち、素材には全てデザート名がつく。一番人気は生地がふわふわもこもこした「ジェラート」、二番手はとろけるような肌触りの「スムーズィー」。百貨店やファッション商業施設のルミネなどに出店している直営店は淡いパステルカラーで装飾され、店員はルームウエア姿で接客する。客も「ジェラートください」「スムーズィーください」などと言い、独特の世界観を楽しんでいるようだ。
定番商品は上下で合わせるセットアップで1万2,000~1万3,000円、ニットトップスは7,000円前後。「部屋着なんてジャージとTシャツで十分」と考える層には安くない買い物といえそうだが、着た時の“ハッピー感”を大切な人と分かち合いたいことから、ギフトブランドとしても人気だ。ギフトの売上は全体の5割を占め、クリスマスなどのイベント時には7割を超えることもあるという。
「この圧倒的な幸福感がジェラート ピケの最大の武器」と話すのは、マッシュスタイルラボ取締役でジェラート ピケ事業責任者の豊山YAMU陽子(とよやま・やむ・ようこ)氏。ジェラート ピケ立ち上げメンバーの一人である。
ライフスタイルに寄り添うブランド。時代に沿って変容する
ジェラート ピケは、コロナ禍でも新たな顧客層獲得に向けて次々と施策を打ち出している。「コロナでブランドが成長したことで視野が広がり、男性やシニア層などにも新たなニーズがあることが分かった。ライフスタイルに寄り添うブランドだからこそ、時代に沿って変化していきたい」と豊山氏。
メイン顧客は20代・30代の女性だが、2020年にメンズ向けの「ジェラート ピケ オム」が本格的にデビュー。肌触りの良いルームウエアは男性ウケも良く、「お揃いのルームウエアを着たい」というカップル需要にも応える。男性が気兼ねなく店に入れるように期間限定のポップアップやイベントも数多く行っている。その甲斐あってか、2021年の売上は約35億を突破。2022年は50億円規模まで押し上げる計画だという。
異業種とのコラボレーションにも意欲的だ。2021年1月から任天堂の「あつまれ どうぶつの森」の人気キャラクターをデザインしたルームウエア、ブランケットやルームシューズを展開。マッシュスタイルラボ代表の近藤広幸氏が「絶対に売れるはずだ」と確信し、予算よりも多く生産したところ、売り上げは好調。シリーズは第二弾へと継続された。
ルームウエアだけでなく、寝具にもジェラート ピケの世界観を取り入れたい人には朗報だ。2021年2月にデビューしたのは、寝具を主とする新ラインの「ジェラート ピケ スリープ」。布団カバーや枕ケース、バスソルトなどを幅広く取り扱い、2021年には3.6億円を売り上げた。2022年は8億円を目指しているという。
面倒な時間がご褒美の時間に変わっていく
マッシュスタイルラボがファッション業界に参入したのは2005年のこと。人気レディスファッションブランド「スナイデル」で事業を軌道に乗せ、2008年リーマンショックの最中にジェラート ピケは誕生した。
リーマンショックとコロナショックの2度も世界不況を経験。厳しい状況下でも成長を続けるブランドの強さはどこにあるのか。
「文化的な要素が強いと思っている。今でこそ当たり前になったルームウエアだが、そもそも部屋着でおしゃれを楽しむというカルチャーが日本にはなかった」(豊山氏)
思い出されるのは豊山氏が幼少期に見た洋画だという。「主人公の少女がすてきなパジャマを着て、寝るまでの時間を”自分時間として”楽しんでいた。今日は何を着る?という感じで輝いて見えた」(同)
ところがジェラート ピケが生まれる2008年以前の日本は、オン・オフの概念すらなかった。「朝から晩まで働いてヘトヘトになって部屋着に着替えるのも億劫といった風潮だった」(同)。パジャマパーティーという欧米文化がある。お気に入りのパジャマを着て友人宅に集合してお泊まり会をする文化だ。ここでのパジャマは、ファッションとしても機能する。
ファッショナブルなルームウエアの誕生は、疲れて帰宅して着替える億劫な時間を、「今夜は何着る?」というご褒美時間に変えた。「ジェラート ピケは『人間の幸福度』に着目したブランド。肌に一番近い存在で温かくてやさしくて、着る人を笑顔にする。金額に値するもしくはそれ以上の幸福時間を提供し、長くご愛用いただける商品をお届けしている」 (同)
寝具ではなくファッション売場で
ただし、ルームウエアを楽しむという文化がすぐに定着したわけではなく、段階を踏む必要があった。
当時のパジャマは、「寝具」に分類されていた。百貨店の寝具売場は上層階にあることが多い。若い女性が日常的に立ち寄る場所ではなかったし、パジャマは寝具売場の隅っこに数セット置いてある程度だった。「人は毎日必ず眠るのに、隅に追いやられているような感覚だった。そこでパジャマを『お部屋の中のファッション』と位置づけ、売場を寝具フロアではなく、おしゃれ感度の高い女性が集まるファッションフロアで販売し、パジャマの概念を変えていった」(豊中氏)
ルームウエアという新ジャンルを確立させた現在は、駅ビルや百貨店などのファッションフロアに出店し、トレンドに敏感な女性で賑わっている。
実店舗とEC。それぞれの役割は?
コロナの巣ごもり需要は、ジェラート ピケのブランド力を成長させるきっかけになったが、2020年に緊急事態宣言が発令され、来店数が激減した時は「さすがに背筋が凍った」と豊山氏。だが、「ルームウェアブランドのパイオニアとしての役割をしっかり果たしたいと思った」と話す。
コロナをきっかけにECの需要が高まり、2021年度マッシュグループ全体のEC売上は、前年比126%。EC化率は32%で急速に進んでいるという。「ECを通して、世界中のお客さまと接点ができた。オンラインならではのスピード感を大切にしつつ、ECで商品を検索してくれたお客さまが実店舗に足を運んでくださったならば、スタッフが持ち前の個性を生かして接客し、 “感動体験”を提供するのがリアル店舗の役割」(同)
海外からのラブコールにどう応えていくか
「海を超えてジェラート ピケが届くのを楽しみにしているお客さまがたくさんいる」と豊山氏が言うように、海外からの“ひき”はある。今後、店舗数をどこまで拡大していくのか。
現在、海外店舗は、中国(17店舗)、香港(2店舗)、台湾(3店舗)、ニューヨーク(1店舗)の計23店舗(2022年3月末時点)。中でも中国と台湾での人気は絶大だ。
「海外展開については、今後の会社の成長に直結すると考えている。目標となる数字を掲げて店舗数を増やしているわけではなく、理想的な場所が良いタイミングで見つかり、我々と同じ考えを持つディベロッパーとともに展開していく」(同)
ポストコロナ時代は、世代も性別も、さらには国境も越えるシームレスな世界を実現する。「ジェラート ピケならそれができる。自信を持ってさらに世界に行ける」と豊山氏は語った。