百貨店向けアパレルが、今すぐ無駄なコストを10億円以上減らす方法 

河合 拓
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話を戻すと、このように「返品が自由な展示会発注」などアパレル側にとって、惰性で昔のやり方を踏襲しているだけで、この展示会を起点にMDを組み立てることに意味は無い。このような話をすると、必ず古い人間がでてきて「百貨店との昔の関係が、、、」とか、「PR用に必要、、、」、「社内説明会に必要」などと言いはじめるのだが、こうした展示会サンプルの残反や、お釈迦になった商品の総額は、1000億円規模の企業でいえば、10億円近くになることを知らない(量産化率70%SKU1000、素材のミニマムロット15kgsで算出)のだ。

だから、そんな人に、「あなたは会社に10億円近い損害を与えているんですよ」ということを告げると、慌てて業務フローを直す。つまり、やろうと思えば展示会など開かなくてもよいし、百歩譲って開催するならすべて3D CADやメタバース技術をつかってやればよい。この分野に5億円投資したとても、5億円のネット利益が出て、すぐに回収できる。

「うちは、商社や工場にヘッジしており、展示会サンプルも現物と同じ値段しか払っていない」という人もいるが、あまりにもビジネスというものを理解していない。商社や工場は研究開発費に計上し、現物仕入や反物にその費用を載せて請求してアパレルの調達コストを上げているからだ。当たり前のことだ。そんなアパレルの身勝手な費用を自前で吸収していたら、商社も工場も潰れてしまう。

百貨店の二重入力で、膨大な違算作業が発生

metamorworks/istock
metamorworks/istock

この百貨店との独特の商慣習に起因した、もう1つの問題について解説していきたい。「売上計上の業務フロー」に伴って発生する、ある膨大な作業についてだ。

売上は、百貨店には上代(消費者への販売価格)で立てて、納入アパレルは下代(百貨店への納入価格)で立てる。だから消化取引の場合、百貨店のPOSレジと、納入アパレルのPOSレジに、人間が「ダブルインプット」(二重で入力すること)をしている。私は、幾社もの百貨店向けアパレルのABC分析(活動基準原価分析といって、人間の年収と活動時間でコストを割り出す究極のコスト計算方法)をしたのだが、例外なく、百貨店向けアパレル企業の経理部には(規模にもよるが)10名以上の人間がいて、アパレルからくる支払い明細と、自社の売上明細の違算突き合わせ業務を朝から晩までやっている。

業務をしらないデジタルベンダーは、「マスター化すればよいではないか」というが、納入率は一定でなく、百貨店側の都合でコロコロ変更されてマスター化できない。そもそも日本に200もある百貨店がバラバラに納入率を決めているものだから、日本全国に納入しているアパレル企業のもっとも工数負荷が高い業務は、「委託消化取引」が生み出す違算管理になるのである。

 

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