呉越同舟かそれとも… ヤマダが”仮想敵”アマゾンと組んで「Fire TV搭載テレビ」を売る深謀とは

2022/03/04 05:55
    椎名則夫(アナリスト)
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    アマゾンの思惑と協業深化のゆくえ

    アマゾンのロゴ
    (2022年 ロイター/Pascal Rossignol)

    では、アマゾン側の思惑を考えてみましょう。

    アマゾンは、ECの浸透を基本に考えており、アマゾンエコーがそのフックの役割を担うことになると思われます。しかしアマゾンにはリアル店舗がなく、他の主要なECサイトである楽天・ヤフーショッピングのような通信事業者との接点が薄いのが現状です。また、グローバルプラットフォーマーであるアップルは自社店舗網に加えて既に通信事業者・量販店との接点が強く、グーグルも通信事業者・量販店との接点を築いています。

    したがって、アマゾンにとってヤマダHDの販売網は、設置・施工などのアフターサービス力を含め、大変魅力的な援軍に映っていると思います。

    では、今後協業の深化はありうるのでしょうか。筆者は、今回の協業の成果次第ではその先は十分あると考えます。

    まずアマゾン側から見れば、全国にわたるヤマダHD店舗をアマゾンのプライベートブランド(PB)のショールームおよび在庫スペースとして活用する可能を無視できません。

    ヤマダHD側から見ると、競合が扱わない商品群が増えることによるメリットは大きいと思います。さらに資本提携に発展すれば(ディスシナジーの精査は必要ですが)事業上のメリットに加え、経営層の充実という積年の課題に対する手当てにつながるかもしれません。

    本件は、ヤマダHD側が成果を出すほど、アマゾンに塩を送ることになり、最後にはアマゾンエコーに母家をとられる危険を内包しています。ヤマダHDの株価が高くない2022年3月2日終値ベースで1株当たり390円、2022年3月期コンセンサスベースPER6倍、PBR0.5倍ため、アマゾン側には現状の提携から買収に至るまで合理的な選択肢が幅広くありますので、両社が今後膝を突き合わせてさまざまなシミュレーションを進めることになっても違和感はない、というのが筆者の見解です。

    プロフィール
    椎名則夫(しいな・のりお)
    都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
    米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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