クルマよりカバンを売る方が儲かる世の中で、ESG経営が行き詰まる明快な理由

河合 拓
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現場はコスト高とデフレで崩壊寸前
サステナファッションなど取り組む余裕はない

 

まず、現場の実態を解説しよう。日々多くのアパレル企業を回っていると、彼らの悩みはこの一点に尽きてくる。「モノが売れない」のだ。

「価格以外の改善変数が見当たらない」ため値引きをしたいのだが、昨今の円安と原料高でFOB (調達価格)10%もあがり、さりとて上代も上げられず企業収益が上がらないというジレンマに陥っている。

 「サステナ素材」は、通常のローカル素材(日本のアパレルは素材を工場任せに調達しているため、ローカル素材という)の3倍から5倍もする。円安と原料高に現場は悲鳴を上げ、通常のローカル素材の質さえ落として上代をキープしているのが実態だ。

「サステナ」とか、(上場企業に限って)「ESG経営」と言っているのは企業の広報室ぐらいで、経営トップが自社のビジネスモデルを変革してでも、「サステナブル x ESG経営」に移行する意思を持った動きは私には今のところ見えない。

 ファッショングッズを売る方がクルマを売るより儲かる衝撃

tupungato/istock
tupungato/istock

そんな折、ファッション業界で衝撃の事実が発表された。LVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトングループ)は202112月期通期決算を発表。営業利益は22296億円で、営業利益が21977億円(2021年3月期)のトヨタ自動車*を抜いたのだ。つまり、やりかたによっては「カバンなどのファッショングッズを売った方が、ハイテクの塊である自動車を売るより儲かる」時代になったということだ。LVMHグループは、原料高をモノともせず、上代を上げていったが、売れるものはいくら値段を上げても売れる。同社の売上はむしろコロナ禍でも増えている。*22年3月期の業績予想は2兆8000億円<21年11月に上方修正後の数字> 

売るために値下げの手段を一生懸命考える日本のファッション産業と、いくらでも値上げが可能な彼の地のファッション産業との決定的な違いは何か。いうまでもなく、「ブランド」である。私は、こうなることを10年前に予想し、『ブランドで競争する技術』という本を書き、欧州のブランドの考え方、日本でブランド化に成功した事例などをあげ、産業界に是非を問うた。しかし、この書籍は多くの経営者に「斜め読み」されて静かに葬られ、売れたのはむしろ海外だった。

 

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