アマゾンとアップルが近い将来、アパレル産業のプラットフォーマーになる理由と戦略とは

河合 拓
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Amazonが仮想通貨を国際通貨とし、
AppleARを使い小売のプラットフォーマーになる

アップルのロゴ
(2021年 ロイター/Mike Segar)

「シンギュラリティ」(技術的特異点)を代表例とする「技術の未来の可能性」と、「デジタル技術の今」の違いを理解できていないいまの50代の管理職が、AIに過剰期待し過剰投資をする事態があちこちで起きている。

これは、構想力の問題である。ファーストリテイリングが10億円の年収でデジタル人材を募集しているように、1万人の凡人より、1人の天才が国と企業を変える時代が来た。NECや富士通が大リストラをしながら、ハイテク人材を破格の年収で採用しているように、デジタル企業で人材の入れ替え戦がはじまっている。おそらく、日本では有能なクリエイティブ人材はほとんどゲーム業界に行っているので、ファーストリテイリングは外国人にターゲットを絞っているのではないだろうか。

このまま行けば、アパレル産業だけでなく日本の経済は米中に「完敗」するだろう。例えば、私は『生き残るアパレル 死ぬアパレル』で、Amazonは金融事業に打って出ると予想し、メディアもAmazon銀行に期待をしていたたが、今に至るまでそれらしい動きはでていない。それでも私は、Amazonが仮想通貨を世界統一通貨として出すのではないかと考えている。仮想通貨は今投機的目的に売買されており価値が乱高下しまだ通貨としての信用がない。だが、仮にAmazonが世界中のどこでも統一通貨で使える仮想通貨をだせば、海外決済時に為替手数料を払う必要も無い。成熟経済下の中での「勝ち方の定義」が変わってきているのだ。

デベロッパーや小売は規模が大きい企業ほど、決済業務に打って出るようになるだろう。過去、Facebookがリブロという仮想通貨をだし、同じようなヴィジョンを描いていたようだがうまくゆかなかったのは、彼らの本業が物販ではないからだ。その点、Amazonなら桁外れの物販が日々行われ、また、それらの多くが日常品であることから成功の確率は大きく変わる。

Amazonも投資業務に打って出れば(実際、日本ではマルイがやっている)、為替手数料がゼロの投資が可能となる。また、それだけ広がりを持つ通貨であれば、数多くの小売業やサービス業もAmazon仮想通貨を採用し、もはや為替という概念さえ無くなる可能性さえある。実際の通貨は残るだろうから、私は、将来Amazonが「越境ECプラットフォーマー」になると考えている。私は日本の商社に期待をしていたが、彼らにそれをやろうという気持ちは見えない。むしろ、楽天が積極的だ。決済も物流も越境ECAmazonや大手プラットフォーマーに奪われるだろう。

メタバースについても、今のアパレルは思い違いをしているように思う。VR (仮想現実)とは、私たちが生きている現実の世界とは別の世界がデジタルによって再現され、そこに自分の分身であるアバターが動きながら、第2の世界を堪能するというものだ。これに対して、AR (拡張現実)とは、現実の世界に仮想の物体を登場させる技術をいう。イケアのアプリで家具を部屋に仮想的に置いたり、Pokemon GOのモンスターを想像すれば良い。アパレル業界では、VRへの出店や「アバター」が大流行だが、私にはなぜ、服を買う時にリアルな自分と全く違うアバターが登場しなければならないのかサッパリ理解できない。まさに、デジタル企業が奇妙なスーツを作り、結果的に話題性で大量のユーザを獲得できたが、スーツやPBそのものは失敗に終わった事例にそっくりだ。

服とは、その人のリアルな顔の特徴や、太っている、痩せているなど体型によって着こなしも変わってくる。したがって、まず、実際の自分の顔を模写した写真を使い、精密に模写された体型を仮想的にスマホやタブレットに作り上げる。そして、さまざまな服を着こなした上で、「似合う」「似合わない」という判断をお客ができるような手法を先にすべきだ。これはメガネのJINSがすでにやっている手法だ。

仮想空間で、全く違う自分が登場し(現在の仮想空間内では、男が女装をするなどしている)、第2の世界で生活するというのはまだ先の話だ。例えばiPadiPhoneに、「計測」アプリやLiDAR(ライダー)という技術が採用されていることに、Appleの将来戦略を感じないだろうか。LiDARは離れた場所にある物体までの距離や形状を光を使って測定できるものだ。同社は、LiDARは、暗所での撮影のピント合わせに役立つと説明しているが、そんな小さいことに、これだけの技術を使うはずがない。同社は、確実に「サイズ」を物体までの距離と、映し出された写真からAIによって解析し、家具、アパレル、オブジェなどの小売事業を仮想的に販売するプラットフォーマーになろうとしていると私は見ている。某デジタル企業の計測スーツより、よほど現実味が高い。

いずれにおいても、日本のアパレルが「オワコン化」している最大の原因は、今に至るまで真剣に「世界化」をしていなかったこと。川中、川上は全くマーケットや世界の潮流を学んでこなかったこと。さらに、こうした技術が細切れに登場しては、バリューチェーン、ビジネスモデル全般にわたり、全体連携する俯瞰力に欠けることだ。次回、こうした絶体絶命の中我々はどのようにDXを進めるべきかを語りたい。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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