ユニクロがデジタル人材に最大年収10億円を払う理由と時代遅れのKPIが余剰在庫を量産する事実

河合 拓
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従来のKPIがアパレルを窮地に追いやる理由

kazuma seki/istock
kazuma seki/istock

まず、誰もがその妥当性さえ疑っていない「MD(マーチャンダイジング)業務」というものがあるが、これは、文字通り、読んで字の如く「マーチャンダイジング(商品)計画」であり、売上計画を週別、月別に落とし「商品」投入時期を決め、さらに、そこから調達計画をきめてゆくものだ。最近では、キャッシュフロー経営が重要になってきたということから財務部と連携し、必要あらば、分割納入や商社金融などの可能性も検討対象となっている。しかし、何度も指摘しているように、この段階で、MD業務に「顧客のビッグデータ」は活用されていない。あくまでも、過去のアイテム別商品動向から将来の動きを予測する。
MD業務」は、致命的な欠陥を持っている。理由は、市場が18億枚〜20億枚しか吸収しないのに、2万社弱あるといわれる日本のアパレル事業所からは、毎年必要量の2倍の35億枚〜40億枚も投入され、昨年度の持ち越し分を合わせると、桁違いな過剰供給になるからだ。具体的には、SDGsが世界的な潮流となった過去からの累積分を含めると、100億枚以上の在庫があるものと試算される。

こうした在庫過多は、「顧客」が不要と考えているにも関わらず、自社の売上都合で在庫をため込み、物理的に不可能な「1リットルしか入らないバケツに2リットルの水を入れようとしている」から起こっていることだ。
論理的に考えれば、クイックレスポンス(QR)もAIの需要予測もこの問題は解決しないことは明らかだ。単に作りすぎているだけなのである。これは、調達段階から「顧客」(自社の商品を優先的に買ってくれる人)のパフォーマンスから、調達量を算出しないからだ。

もう少し噛み砕いて解説してみる。

例えば、売上が100億円だった場合、この意味を

  1. 平均単価 3,000円の商品が、約300万枚売れた
  2. 客単価 (商品一点単価 x セット率 x 購買頻度/年=60,000円)が、17万人買ってくれた *一点単価を3000円、セット率を2、年間購買頻度を10枚と暫定的におく

のどちらで考えるか?
ほとんどのアパレル企業は1で判断するはずだ。私が提唱する2.「次世代KPI」で考える企業は、通販企業を除けば皆無だろう。だから、そもそもの数量から間違えてしまう。もちろん、ユニクロのように単一ブランドで売上8000億円(国内市場)まで規模の経済が働けば話は別だ。

思えば、「商品粗利」、「商品消化率」、「商品評価損」、「ABC分析」など、私たちが使っている、ほぼ全てのKPIは「商品ベース」で、ここに疑問も持っている人はいない。
これは、バブル時代から全く変わっていない、売上を上げようとすればするほど、商品投入量を「将来の売上」と考え作りすぎるわけだ。その結果、余剰在庫が残された。

今は顧客のニーズが多様化し、買い換えサイクルが長期化、二次流通市場が拡大している。そうした環境では、誰が買うのか分からない「玉」を仕込むより、「買ってくれた実績のある顧客」を追いかけ、「一点単価」「セット率」「購買頻度シェア」のいずれかを分析し、総購買層の中から異常値になっている顧客クラスターに対し、具体的な原因究明と解決案を向上する施策を、デジタル技術をつかって実行する方が理にかなっているだろう。

これがデジタルマーケティングである。

 

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