カインズが東急ハンズを買収した理由と気になる「東急ハンズ」店舗は今後どうなる?

雪元 史章 (ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長)
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コロナ禍で2社の業績には明暗 東急ハンズの業績改善が課題に

 「DIY文化の共創」を掲げて”合流”した2社だが、両社の業績はコロナ禍で大きく明暗が分かれている。

 カインズは家ナカ需要やDIYブームなどを追い風に成長基調にあり、212月期の売上高は4854億円、対前期比10.1%増と2ケタ増収を遂げている一方、東急ハンズは厳しい状況に置かれている。同社の売上高はコロナ前までは1000億円弱の売上高で推移していたが、コロナ禍では多くの店舗が都心部に位置することや、営業時間の短縮、さらにはEC化の加速といった、立地特性や経営環境の変化に大きく影響を受け、直近の213月期の連結売上高は619億円、2期連続の最終赤字を計上するなど業績は急降下。2110月には「池袋店」(東京都豊島区)を閉店するなど経営効率化を図っていた。

  その意味でカインズにとっては「DIY文化の共創」という壮大な目標の前提として、グループに迎える東急ハンズの“テコ入れ”も重要なミッションとなる。高家社長は「(東急ハンズの業績低迷と言う)足元を見るのではなく、ともにやっていくことで必ず東急ハンズの価値が磨き上げられ、それがしっかりと業績に表れてくるはずだ」と力を込めた。

自力成長を是としたベイシアグループとしては異例の大型M&A

カインズ外観
カインズ、そしてベイシアグループ全体としても異例の大型M&Aとなった

 他方、今回の買収はカインズ、そして同社を擁するベイシアグループ全体にとっても経営戦略上の大きな転換点と捉えることもできる。同グループはM&A(合併・買収)に頼らず、「カインズ」「ワークマン」「ベイシア」といった事業会社が独自性を磨きながら”尖る”ことを是とする「ハリネズミ経営」を経営戦略に掲げている。

 その点で、今回のカインズによる東急ハンズ買収は異例の動きと言える。これについて高家社長は「われわれは決してM&Aを否定してきたわけではない。単純な規模拡大をめざしたM&Aが選択肢としてなかったというだけのこと。今回はM&Aというよりは、DIY文化の創造をめざすという共通した価値観を持った東急ハンズさんをパートナーとして迎え入れたかたち」と説明した。

 とはいえカインズにとって、都心部に店舗を持ち、趣味嗜好性や話題性の高い商品を扱う東急ハンズを手中に収めることは、経営戦略上大きな意義を持つことも確かだ。カインズがこれまで培ってきたノウハウや、物流・デジタル基盤といったリソースをフル活用しながら東急ハンズの価値を最大化して業績改善にもつなげ、そのうえで「DIY文化の創造」という目標を達成できるか。そしてそれはどのようなかたちで達成されるのか。今後の動きに注目が集まる。

 

 

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記事執筆者

雪元 史章 / ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長

上智大学外国語学部(スペイン語専攻)卒業後、運輸・交通系の出版社を経て2016年ダイヤモンド・フリードマン社(現 ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。企業特集(直近では大創産業、クスリのアオキ、トライアルカンパニー、万代など)、エリア調査・ストアコンパリゾン、ドラッグストアの食品戦略、海外小売市場などを主に担当。趣味は無計画な旅行、サウナ、キャンプ。好きな食べ物はケバブとスペイン料理。全都道府県を2回以上訪問(宿泊)。

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