金融庁のまとめ(2015年)によれば日本のキャッシュレス決済比率はわずか19%である。これは、米国の41%、韓国の54%、中国の55%との比較でいえば極端に小さい。
キャッシュレス決済は、いまや世界的な潮流である。日本でも19年のラグビーワールドカップ、20年の東京五輪を目前に控え、その導入の動向には注目が集まるところだ。
それだけではない。「現金の取り扱い」には人件費を含めた多額のコストを要する。
日本国内だけでその額は8兆円(金融機関2兆円、小売業と外食業6兆円)という説もあり、社会的コスト削減という意味でもキャッシュレス決済は的を射た動きであると言っていい。
その中でも最近勢いづいているのはQRコード決済だ。
アリババグループの「アリペイ」やテンセントの「ウィーチャットペイ」という中国勢の日本参入を受けて、LINE、NTTドコモ、楽天、Origami、ソフトバンクとヤフーの合弁会社であるPayPayなど日本企業の参入も続々だ。
まず、シェア拡大を優先させる戦略をとっているからだろう。たとえば、LINEのLINE Payは加盟店決済手数料を3年間無料。インドに3億人のユーザーを抱えるPaytmの技術を導入したPayPayも3年間手数料無料を打ち出している。
また、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループの3メガバンクは、金融機関によるキャッシュレス協議会を立ち上げ、QRコードの規格統一に動き出したというニュースも流れてきた。導入店舗の初期投資負担が小さいことから、QRコード決済は一挙に日本中を席けんする可能性がある。
そして、準備中と言われていたアマゾンも18年8月29日にアマゾンペイをリリース。ついにそのベールを脱いだ。アマゾンペイは、もともとは15年にアマゾンジャパンがパソコンやスマートフォン(スマホ)向けに出したサービス。アマゾン以外のサイトでもアマゾンのアカウントを使って簡単・安全に買物ができるID決済サービスだった。
今回の取り組みは、アマゾンペイを実店舗でのスマホ決済に対応させたもの。アマゾンのショッピングアプリでQRコードを表示させ、店側に読み込んでもらうというサービスだ。「地球一の品揃え」を標ぼうする同社にとって、オフライン市場への進出と取り込みはきわめて自然な流れと言っていい。
さらには、企業規模を問わず、「〇〇ペイ」は、ますますリリースされそうな兆しがある。ただ、日本においてはいまのところQRコードの一般消費者の認知度はそれほど高くはない。今後、高齢者に使ってもらうには、アプリのダウンロードや使用方法の学習などのハードルも高いことは否めない。
むしろ日本に定着しているキャッシュレス決済は電子マネーやクレジットカードだ。
日本の電子マネーは、非接触型ICで「WAON(ワオン)」「nanaco(ナナコ)」「Ponta(ポンタ)」「Edy(エディ)」「Suica(スイカ)」「PASMO(パスモ)」などみんなこのタイプだ。アップルは、日本市場を見据え、フェリカ対応の「アップルペイ」をリリースした。NTTドコモの「おさいふケータイ」も非接触型ICをモバイルに搭載するかたちで普及している。
一方のクレジットカードはどうか?
この 6月1日、改正割賦販売法が施行された。これにより、小売業はICクレジットカードへの対応を求められることになった。こうした流れの中で、野村総合研究所上級コンサルタントの宮居雅宣氏は、今後の非接触ICの有望株として、クレジットカード会社が発行する「Visa payWave」「Mastercardcontactless」「銀聯Quick Pass」「Americanexpress contactless」「JCBコンタクトレス」などの名前を挙げている。
日本がキャッシュレス化の方向に向かうなかでさまざまな「新・決済」が現出し、いまや決済市場は、混沌を極めている状態だ。
決済手数料率の行方も含め、これからどうなっていくのかについては、今のところは静観せざるを得ないところだが、考えてみたいのは消費者視点に立った決済のメリットだ。
たとえば、クレジットカードはポイントや付帯サービスが充実しているがサインが必要などの面倒な面もある。電子マネーは手軽で早く消費者に負担がないがプリペイドの場合は頻繁にチャージが必要だ。QRコードは加盟店の導入コストが安いので中小零細店でも導入が可能。だが、消費者の立場ではアプリの立ち上げに時間を要するといった使い勝手の悪さも否めない。
そういった一長一短を相互に競い合うなかで改善を繰り返し,ディファクトスタンダード(業界標準)が生まれてくるのだろう。
野村総合研究所(2017)によると、スマートペイメント市場は23年には114兆円に拡
大。17年の73兆円から約56%増になると予想している。
日本のキャッシュレス化率はいまだ約20%。そこには果てしない可能性を持つフロンティアが広がっていることだけは事実だ。
『流通テクノロジー』誌2018年9月号 特集「新・決済」カバーストーリーから