2015年10月8日、ファーストリテイリング(山口県/柳井正社長)が2015年8月期決算(IFRS)を発表した(@ロイヤルパークホテル)。過去最高の業績達成を前に柳井社長は何を語ったのだろうか?(談:文責・千田直哉)
2015年8月期の業績は、売上収益が1兆6817億円(対前期比21.6%増)、営業利益は1644億円(同26.1%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は1100億円(同47.6%増)と過去最高の連結業績を達成した。
2015年8月期を振り返ると、海外ユニクロ事業の大幅な増益が全体の業績を牽引した。
とくにグレーターチャイナ(中国、香港、台湾)と韓国の業績が好調だった。
一方で米国事業の赤字幅は拡大し、全社をあげて課題への対策を強化しているところだ。
国内ユニクロ事業は、第4四半期は減益だったが、通期では増益を達成した。
出店では、2014年10月にグローバル旗艦店の「UNIQLO OSAKA」(大阪府)、グローバル繁盛店の「吉祥寺店」(東京都)を出店し、成功を収めた。
秋冬シーズンは、ヒートテック、ウルトラライトダウン、ウールセーターなど冬のコア商品の販売が好調。春夏シーズンは、6月から売上が低調、第4四半期は大幅な減益だった。
マストレンドをつかんだ商品開発、ニュースの発信力に課題を残したと反省している。
マストレンドについては、世の中の変化やファッションの変化をとらえきれなかった。それに対する注意力に欠け、生産量を見誤り、コレクションとしての幅があやふやだった。
対策は、マストレンドをしっかり把握すること。盛夏のショートパンツやTシャツ、ポロシャツ。またブレザーなどコア商品のSKUを最後まで切らさないこと。販売予想が甘く、生産フォロー体制もできていなかったので、ここについてはすでに手を打った。
国内ユニクロ事業は、客数が減少しているが、これは仕方ない。理由が為替変動にあるからだ。1ドル80円から120円へと急速に円安が進んだことが大きい。円が34%も減価しており、今の品質を維持することを考えれば、必要最低限の値上げは仕方ないだろう。
節約モードが蔓延し、消費自体はよくなく、停滞から縮小していると思う。
ジーユー事業が大きく成長し、第2の事業の柱になった。
2015年8月期は大幅な増収増益を達成。「ファッションと低価格」の新しいアパレルブランドとして日本市場で確固たるポジションを確立した。
J Brand、システム関連、店舗などの減損損失を161億円計上した。
さて、今後の成長戦略は次の9項目からなる。
① 「グローバルワン・全員経営」の経営体制の実践
日本のグローバルヘッドクォーターが全世界をダイレクトに経営すると同時にニューヨーク、パリ、上海、シンガポールを拠点とする各エリアの全社員が「グローバルワン」の経営体制を推進する。
日本とグレーターチャイナ、韓国のユニクロビジネスの成功要因を全世界・全ブランドに応用し、「グローバルワン」の基準を統一する。
そして、全従業員が経営者マインドを持つ「全員経営」を実践し、グローバルで活躍する次世代リーダー、経営者の育成を推進したい。
② 海外ユニクロの高い成長を継続し、ユニクロを世界ナンバーワンブランドにする
2016年8月期には、海外進出16年目にして、海外の店舗数が日本の店舗数を超える予定だ。2015年9月末時点で812店舗ある海外ユニクロ店舗は、2016年8月末には958店舗に。国内ユニクロ店舗は841店舗から同846店舗になる計画だ。
グレーターチャイナは、2015年8月期の売上高が3044億円(同46.3%増)、営業利益386億円(同66.1%増)と初めて売上高3000億円を突破した。店舗数は467店舗(中国387店舗、香港25店舗、台湾55店舗)と対前期比末93店舗増。上海グローバル旗艦店の5階をディズニーの協力を得て、「MAGIC FOR ALL」のコンセプトストアに改装した。高い成長を継続させ、年間100店舗の出店を進める。
中国市場の減速が話題になっているが、当社の場合は、まったく影響はなかった。ラグジュアリーブランドは減速しているかもしれないが、我々は関係なかった。短期的にも見ても長期的にみても、中国経済が非常事態になることもないだろうと考える。
しかもまだまだ中国は生産・輸出が中心の国であり、生活・内需中心の国に変わっていく過程にあるので我々のような消費財を主にした企業にとっては、大きな市場だととらえている。
韓国は155店舗と同22店舗増加した。売上、利益、ブランド価値ナンバーワンのアパレルブランドの座を獲得。継続的な高い成長を維持したい。
東南アジア・オセアニアでは、フィリピン23店舗、インドネシア8店舗、シンガポール23店舗、マレーシア25店舗、タイ23店舗、オーストラリア6店舗と合計108店舗となり、店舗数は100を超えた。ブランド認知度が高いので、出店による拡大を継続し、同地域を代表するグローバルブランドをめざす。
欧米は、大都市への出店を進めたい。
一方、米国ユニクロ事業は課題が多い。現在は、北米に42店舗を展開している。
事業水準、経営水準が低いためだと原因については考えている。それと、ニューヨークやサンフランシスコ、ロサンゼルス、シカゴなどの大都市では我々のブランド浸透度が高いのだが、郊外のショッピングモールなどではいまひとつなので、出店政策自体を変えていかなければいけない。大都市を中心に拠点をつくり、それプラスEコマースを我々の商売の主力にしていきたい。
米国事業は、早期黒字化をめざし、全社を挙げて事業をサポートする。事業や経営の水準を上げれば、必ずうまくいくはずだ。
また、米国市場での新しいマーケティングをスタートさせる。具体的には、2015年秋からクリエイティブディレクターのJohn C Jay による新聞広告を掲載した。
10月23日に開業するシカゴの旗艦店により、ユニクロブランドのさらなる向上を図る。
またスクラップ&ビルドによって採算改善を図る。年間の出店数を抑制すると同時に大都市の好立地に大型店・旗艦店を出店する。好調なEコマース事業の商品構成を抜本的に見直し、売上を大幅に引き上げる。
欧州ユニクロ事業は現在、ロシアに8店舗、ドイツに1店舗、英国に9店舗、フランスに8店舗の合計26店舗を展開している。事業利益は順調に改善している。主要都市に出店を継続したい。2015年10月2日にベルギー1号店が開業する。
ロンドンの旗艦店(311オックスフォードストリート店)を全面改装(開業は2016年春)することにより、売場面積の拡大とブランドイメージの向上を図りたい。
③ 国内ユニクロは、地域密着型の個店経営を推進
勤務体系を柔軟に見直し、働き方を多様化。地域に根差した長期雇用の正社員が増えることで地域密着型店舗に転換を図る。
地域正社員は2015年8月期末現在、約1万人に増加している。2015年10月からは地域正社員を対象に週休3日制を導入する。
ユニクロは、2015年秋冬に「INES DE LA FRESSANGE」「LEMAIRE」「CARINE ROITFELD」など様々なコラボレーション企画を展開する。
④ 世界最高水準のサプライチェーンを確立する
商品企画は、東京、ニューヨーク、上海に加え、パリ、ロンドン、ロサンゼルスに本格的なR&D(リサーチ&デベロップメント)センターを今期中に設立する。そしてマストレンドをつかんだ商品開発とニュースの発信を強化し、ファッションリーダーシップへの挑戦を果たしたい。
生産面では、東レ(東京都/日覺昭廣社長)や天然素材を含めた素材供給元とのパートナーシップをさらに強化し、高機能素材を使った商品の開発力を高める。
グローバルで最適な生産ネットワークを構築し、追加生産のリードタイム短縮化に努める。
⑤ デジタルイノベーションを進め、新しい産業を創る(顧客ニーズを即商品化する)
企画・生産・物流・販売のすべてのプロセスがインターネットでつながることですべてが同時進行するシステムを構築する。
たとえば、企画した商品をバーチャルでサンプル化し、確認、修正、生産が同時進行することで最速で最適な数量を生産する。
お客様とユニクロが双方向でつながるデジタルコミュニケーションにより、お客様のニーズにあった独自の新商品を短期間で開発する。
お客様の買い物体験としては、いつでもどこでも、その場所で最適な買い物ができるようになるだろう。たとえば、リアル店舗で注文、自宅などで商品を受け取ることができるようにする。
最終的には、お客様が要望する商品を直接向上に発注し、即生産・即発送する。
そしてグローバルでEコマース事業を拡大する。現在は売上構成5%ほどだが、この比率を30~50%に拡大させる。時期は世の中の動きによる。10年以内には売上構成比の30~50%がEコマースによるものとなるだろう。それよりも早いかもしれない。最も早ければ3~5年以内。非常に短い時間で劇的に変わることになるだろう。
その際に重要なのは仕事の仕方や組織の構造だと思う。商売の仕方をEコマースの方向に変えていく。
⑥ 異業種との提携を通じて新しい技術、画期的なサービスを取り込み、新しい産業を創る
そして、異業種との提携を通じ、新技術、画期的なサービスを取り込み、新しい産業を創る。具体的には、大和ハウス工業(大阪府/大野直竹社長)とは次世代物流の仕組みを国内数カ所で構築中。アクセンチュア(東京都/江川昌史社長)とは、企画・生産・販売・物流が同時に稼働する新しいシステムの開発とIT人材の採用と育成に努める。(セブンイレブンなどの)コンビニエンスストアを拠点に様々なサービス、商売を検討中だ。
⑦ ジーユー事業の高い成長性をグローバル化
2015年8月期のジーユー事業は、売上収益が1415億円(同31.6%増)、営業利益164億円(同174.9%増)を計上した。中期的には日本市場での店舗のドミナント化を進める。中国・台湾などアジアへの出店を加速させ、中期目標としては売上収益3000億円、営業利益400億円を狙う。
⑧ アフォータブルラグジュアリーブランド事業の改革
「セオリー」「J BRAND」「プリンセスタム・タム」「コントワー・デ・コトニエ」といった各ブランドのDNAを活かしながら、ファーストリテイリング、ユニクロのプラットフォームとビジネスプロセスを使い、各ブランドを最短で10億ドルのビジネスに育てる。
⑨ 「世界を良い方向に変えていく」CSR活動の推進
全商品リサイクル「1000万着HELP」プロジェクトとして、2015年秋冬にお客様の協力を得て、社員とともに1000万着を回収する。そして国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じて、約6000万人の難民・避難民への衣料支援を強化する。
2016年8月期の業績予想は、売上収益1兆9000億円(同13.0%増)、営業利益2000億円(同21.6%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は1150億円(同4.5%増)を見込んでいる。
なお、ファーストリテイリングの中期目標は、売上高5兆円、営業利益1兆円の世界ナンバーワンブランドだ。
最後にファーストリテイリングは、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」。