「私は自動発注の否定論者なんです」。
サミット(東京都)の田尻一社長は、11月12日に開かれた決算発表の席できっぱりと言い切った。
同社子会社の衣料品専門店サミット・コルモ(東京都/田尻一社長)には自動発注システムを導入しているが、核事業である食品スーパーには導入しない。
その理由について、田尻社長は、「従業員の思考が止まり、売場が面白くなくなる」としている。
「売場は、商品をただ並べればいいのではないと思う。お客様がワクワクするようなヒューマンタッチに溢れる売場が求められている。だから、従業員の感情を入れていきたい」。
これと真っ向から異なる考えを持っているのが翌11月13日に決算発表をしたバロー(岐阜県)の田代正美社長だ。
「店舗が増えれば増えるほど、人間の(属人性に任せた)やり方には限界がある。発注にしても、自動発注の方が(精度の)平均値が上がることが明確になった」(田代社長)。
バローは、この言葉に象徴されるように、事業規模拡大を図りながら、製造小売業化を進め、粗利益率の増加に注力。また、プロセスセンターやITを活用したり、現場力を強化することでコスト削減を同時並行的に進め、営業利益を改善し、人口減少エリアでも利益を計上できる企業体質づくりに努めている。
たまたま1日違いで決算発表のあった2社を比較すると、共通項は製造小売業化だ。
素材に付加価値をつけることで今よりも高い利益率を目指している。
一方、コストに関する考え方は真逆。サミットがインストア加工や自動発注を導入しないなど、人手をかけることで差別化策に乗り出しているのと対照的に、バローはアウトパック、自動発注など販管費削減を推進する。
食品スーパー業界を俯瞰すると、この両社は業界の典型と言ってよく、製造小売業化は多くの企業の共通テーマであるけれども、コストについての考え方は一定していない。
コスト政策も、企業の根幹に関わることであり、各社の信念として決めているゆえに、いまの段階で良し悪しを判断できるものではない。
ただ、次の10年を待たずして、この差異が企業の存亡にかかわる重大な選択であったと分かる日が来るはずである。