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超常識商売人

 「うに」や「ふぐ」を食べようとした先達がいたから、いまの日本の優雅な食生活がある。毒に当たるかもしれぬ、と誰もが尻込みしていたら、永遠に海の珍味にたどり着くことはなかったろう。

 

 私たちのチェーンストア業界も似たようなところがある。「チェーンストア」「総合スーパー(GMS)」「食品スーパー」「コンビニエンスストア」「PB」「海外進出」…失敗を恐れ震え、誰もが踏み出さなかったならば、いまの快適な消費環境は別の形に姿を変えていたことだろう。歴史を振り返れば、三越を興し、「店先現金販売」「諸国商人販売」「反物の切売り」を実践した三井高利。戦後は、中内功さん、伊藤雅俊さん、鈴木敏文さん、岡田卓也さん…。その超常識ぶりは、「うに」「ふぐ」と何ら変わりない。

 

 ところが近年の日本の流通業界では、突拍子もないビジネスにチャレンジする経営者が減ってきた――。と考えていたところで、異彩を放ち凄みを見せているのが、神戸物産の創業者である沼田昭二(60)会長兼CEO(最高経営責任者)だ。エジプトや北海道に土地を買い耕作し、宮城県では漁船を購入。生産拠点となる工場を次々と買収し、製造業がフランチャイザーの「業務スーパー」ビジネスを成功に導いた。次なる一手は、「米国でのしゃぶしゃぶ事業」。毀誉褒貶はあるだろうが、沼田さんのような超常識商売人を見ているとワクワクとさせられ、日本の流通業のダイナミズムも決して失われていないと安心する。 

 

『チェーンストアエイジ』誌2014年11月1日号