数年前に開かれたある講演会で講師が受講者に尋ねた。
《この受講者の中でユニクロのフリースを購入したことがない方がいましたら挙手していただけますか?》
300人程度の受講者の中で手を挙げたのは5人ほど――。
ユニクロのフリースの浸透度合いに驚愕させられたものだ。
そのユニクロ(山口県/柳井正社長)のフリースの発売開始は1994年。今年で20周年を迎えた。
1984年に創業したファーストリテイリング(山口県/柳井正社長)は、飛ぶ鳥を落とす勢いで株式公開までの道を駆け上ったが、ファミリー衣料の「ファミクロ」やスポーツ衣料の「スポクロ」の失敗で明日をも見えぬ状態が続いていた。
そんな中で起死回生の一打になったのが、フリースだった。
発売開始4年後の1998年には「ユニクロ原宿店」(東京都)を開業。ユニクロのフリースは空前のブームを迎え、柳井社長をして「(フリースは)我々にとって原点。過去であり、現在であり、未来である」と言わしめる「ふだん着」として定着。また同社の急成長に貢献した。
累計販売枚数は3億枚。
どの世帯のワードローブにも数枚はぶら下がっているのだろうから市場は飽和してもおかしくはない。
しかし、「品質を上げながら、価格を下げる」という柳井社長の方針にしたがい、イノベーションを繰り返すことで、ユニクロのフリースは、いまなお売れ続けている。
過去20年の主なイノベーションを振り返ると…
・1994年 フリース発売開始
・1998年 ユニクロ原宿店オープン
・2000年 50色キャンペーン展開
オンラインストアオープン
・2001年 リバーシブルフリース発売
・2002年 プリントフリース発売
・2003年 マイクロフリース発売
・2008年 ファーリーフリース、パルキーフリース発売
・2009年 「前向き。ユニクロのフリース」キャンペーン
・2013年 10グルッペンコラボモデル アーバンフリース発売
と枚挙に暇がないほどだ。
さらに2014年のフリースは、従来よりも1.5℃暖かく防風性を強化するなど機能を進化させるとともに、都会の女性が「ファッションアイテム」として利用できるようにファッション性を進化させた。
フリースの注目すべきは、イノベーションだけではない。
マーケティングでも突出したものを見せている。
たとえば、現在、ユニクロのフリースは16の国と地域で販売されているが、酷暑の東南アジアでも引きが絶えないという。
「寒い国や地域に旅行するときの備えとして購入されたり、冷房の効きすぎた部屋対策として着用される方が多いようだ」(中嶋修一グループ上席執行役員)。
マーケティングの教科書には、イヌイット(=エスキモー)族に冷蔵庫を売る、という話が必ず登場するが、ユニクロは、このお手本通りにマーケティング活動を実践しているわけだ。
2014年のセールスプロモーションは、トータス松本さん、イッセー尾形さん、山崎まさよしさん、木村貴史さん、門脇麦さん、宮本笑里さん、杏さん、諸岡奈央さんの8人をアンバサダーとして起用。TVCMや新聞広告を通じて、未来へのメッセージを語ってもらう。
なお、2014年のフリースの売上目標枚数はピークの1999年の実績プラス1000万枚。ユニクロのフリースは、世の中に成熟市場などないことを実感させられる生きた教材だ。
※出張のため明日、あさってとBLOGをお休みします。次回の更新は10月20日(月)になります。