「小売店隆盛して国滅ぶ」とため息をついた製造業のトップがいた。
「小売業は仕入れ価格の条件交渉しかしない。製造業はまるで利益が取れないから、再投資ができない。そして技術力は衰退していき、ひいては国が滅んでいく」という論理展開だ。
かつて、イノベーションとは、製造業の十八番ともいうべき単語だった。
ところが、小売業の取引条件がいっそう厳しくなり、工場などの設備を稼働させるためにプライベートブランドをつくるようになると、薄利化が加速し、製造業はR&D(調査開発)にコストをかけられなくなり、イノベーションにまで手が回らなくなっていく。
逆に、強大な販売力を背景に、小売業が中心となって起こすイノベーションは市場に定着してきた。もはや、イノベーションは、製造業の専売特許ではなく、製造小売化を進める小売業のキーワードとも言えなくはない。
なぜ、こうしたことが起こってしまうのかと言えば、日本の総需要が生産力(=製造業の供給力)を下回っているからだろう。
衣食住ともに供給過剰であり、工場数が現在よりも随分と減らない限り、“川下デフレ”は止まらないのではないだろうか?
「日本のナショナルブランドメーカーは、いくつかの有力どころを残してなくなっていくんじゃないか? 生き残りに向けて、とにかく製造業はイノベーションをし続けないといけない」という某チェーンのトップの言葉が頭を離れない。