5月1 日にローソンの代表取締役社長を玉塚元一取締役代表執行役員COOにバトンタッチする。2002年5月にCEOに就任して以来、企業理念「私たちは“みんなの暮らすマチ”を幸せにします。」のもと、オンリーワンを目指して様々な改革を実施してきた。
その結果、2014年2月期を含めて11期連続で増収増益を達成。ROE(株主資本利益率)も15%以上になった。
ローソンは、私が12年前のとても厳しい時期に社長に就任。以降、私個人のリーダーシップで牽引してきたようなところがある。
私の弊害は、何でも私がやってしまうので、社員も最後まで私を頼り切るようなところがあったことだ。12年間も社長をしていると私もそのことに気づかなくなってきていた。
私があまりにも強すぎるために人材育成が後退するのではという危機感もあった。
自分のやってきたことを自分で壊さなければいけないと考えた。
そんな中、2011年3月11日。東日本大震災が起こった際には、東北支社長を中心に社員、加盟店さんが一丸となって、企業理念のもと、非常によくやってくれたと感服した。
「ローソンには人材がたくさん育っている。自分たちで判断してやっていける」と実感した。
三菱商事(東京都/小林健社長)在職中に学んだ一番大事なことは、人を育てることだ。このDNAをローソンに植え付けることができたと確信した瞬間だった。
その時から、次の3年で新たな体制づくりをする、という誓いを立てた。
もはや、ローソンの直面している経営課題は、企業の立て直しにあるのではなく、人材育成、また現在のビジネスの基盤を活用してより業容を拡大して、企業価値を向上させ、飛躍していくことにある。
これは1人ではできない。チームでの取組が必要だ。
そして、個人リーダーシップの体制から、チームワークを駆使できるリーダーが必要だと、考えるに至った。
さて、私の後にチームのリーダーになってもらうのは、具体的に誰かと考えたときに、何人かの候補がいた。
その中で一番大事なことは私たちの企業理念「私たちは“みんなの暮らすマチ”を幸せにします。」を共有できる人物、数値的に実績を残せる人物、そして義理人情の世界で加盟店のみなさんと信頼関係が築ける、また、築いた人物――。
こういう観点から私は、玉塚元一が適任と考え、3月24日の取締役会おいて全員一致で次期社長に決めた。
私が玉塚を後継者として指名するに至った決定打は、加盟店さんとの直接対話の姿勢を見ていてだ。ローソンには、1年間に何度も加盟店さんと会合の機会がある。玉塚も最初は、ギクシャクしていたが、ここにきて、何かあったら、社員も加盟店さんも玉塚に相談するようになっていた。
加盟店さんとの信頼関係は私たちのビジネスの源泉である。
とりわけ私が重要だと考えているのは、ユニークな加盟店さんをマネジメントによって企業化していくこと。彼のやり方を見て、彼が適役だと考えるに至った。
玉塚は、若いころから経営の経験があり、経営の感覚に優れ、ローソンのDNA「新しいことにチャレンジする」を具現化できる人物だと思う。
一方、今後、私が会長として考えているのは、何よりも新体制を支えることだ。
“2頭体制”にならないように5月27日の株主総会後の取締役会で代表権を返上し、取締役会長に就任する予定だ。今回の組織変更では、CEOとCOO職を廃止して会長、社長とした。CEO、COOは加盟店さんにわかりにくいので、わかりやすくした。
玉塚がしっかり執行し、私は新体制を支援していく形をとる。
また今般、三菱商事の小林健社長にお願いして、44歳の竹増貞信さんを副社長として派遣してもらう。竹増さんに対してもアドバイスし、玉塚新体制が目指している「マチの“健康”ステーション」としてのインフラ構築に向けて大所高所からサポートしていきたい。
現在、私の社外活動は、内閣官房 産業競争力会議の民間議員として、農業、医療・介護に意見している。また内閣府 税制調査会では特別委員も務めているので、よりいっそう責務を果たしたい。
社内的に私が一番大切だと感じているのは、ローソンが次の成功に向けて、次の経営体制にシフトさせることだ。これを見届け、アドバイスをしていく。
それができたうえで、長期的には何か新しいことを始めるかもしれない。
今後のローソンに残されている課題をいくつか挙げていくなら、ひとつめは「海外事業」だ。
中国に一番、力点を置いており、次がインドネシアとタイなどのアセアン。次がアメリカでハワイだけでなく、本土も含む。
中国は、以前ほど元気がなくなったといわれるが、それでも経済成長率は7%強もある。中国事業は、まだ赤字ではあるが、収益性は改善している。しっかりした基盤を構築して、早期に黒字化を図りたい。中国は、独資なので、我々の持っているノウハウが生かすことができる。私たちのローソンイズムをしっかりと反映できるようにしたい。
アセアンは、地元財閥が強く、市場に単独で入り込んでいくのはなかなか難しい。アセアンで勝つためには、それ以前にジャパンブランドを育てないといけないと考えている。
海外事業の考え方は、「自分たちでやる」ということだ。私たちの考え方をきちっと具現化できる体制。これが重要だ。
海外事業では、日本の学校を出た現地の方を全従業員の3割採用し、その人たちを中心にして運営している。
なにせ、日本のコンビニエンスストアは世界一だ。IT業界とは、異なり日本のコンビニエンスストアは誇るべき業態だ。だから日本語のわかる人に活躍してもらい、日本のコンビニエンスストアのよさをきちんと伝えていきたい。
2つめは「ラストワンマイル」だ。すでに宅配事業の「スマートキッチン」などを始めてはいるが、私たちのネットワークである1万2000店の店舗網とロジスティクスを活用してもっとスピードを上げて整備しなければいけない。
かつて私は、「打倒アマゾン」と言った。アマゾンのビジネスモデルを理解し検討しなければいけないということだ。ラストワンマイルは、その意味からも大変重要になる。
ローソンが、「打倒アマゾン」に向けて、まずやっていかねばいけないのは、「腐るもの=ペリシャブル(生鮮食品)」の取り扱いだ。これはEコマース企業との比較でローソンが長けている分野。農業に参入してよりよい農作物と加工品を開発し、タイムリーに届ける。
3つめは「合従連衡」。同業態の合従連衡、縦型の合従連衡も必要になる。
もちろん、「人材育成」は継続的にやらなければいけない。ローソン大学では、経営理念やスキル習得を教えている。これは経営の根幹に当たる部分なので継続する。
最後にコンビニエンスストア業界の未来展望について話しておきたい。
コンビニエンスストアは、100兆円規模と目される日本の小売市場の中では10%未満のシェアしかない。だからこそ、今後ますます国内においての潜在成長性や可能性は大きい。見方によっては、海外よりも大きいかもしれない。
しかもアベノミクスの進展によって、女性の働く環境が整い、女性が働くことがさらに促進される。そうなると女性は今まで以上に時間を大事にするようになる。近いところで生活必需品とプラスアルファの商品を買えるということは非常に大事なことだ。
また、65歳以上の人たちがよりコンビニエンスストアに来店するようになっている。東京都内でさえも買い物難民という層がでてきた。コンビニエンスストアはそこにも対応しなければいけない。だから、社会的インフラとしての価値を上げるチャンスがある。
OTC(一般医薬品)や生鮮食品の販売を強化し、重たいものは、運んで差し上げる――。
基本の徹底と地域密着にまい進することを玉塚にも引き継いでいってもらいたい。