醤油の市場は右肩下がりだ。
『チェーンストアエイジ』誌2013年8月1日・15日合併号の「The Interview +(プラス)」のコーナーに登場してもらった久原本家グループ本社の河邉哲司社長によれば、「国内消費量は減り続け、この10年だけでも2割減っている」という。しかも減少幅は年を追うごとに大きくなっている。
この原因は、食事の洋風化、少人数世帯化、魚離れなど、複合的なものらしい。
では、個々の企業が醤油市場において伸びる余地がないのかと言えば、決してそんなことはない。
たとえば、ヤマサ醤油(千葉県/濱口道雄社長)が2009年から発売している「鮮度の一滴」だ。
工場で出荷直前の醤油は、非常においしいものだと言われる。しかし、封を開けた瞬間に酸化による劣化が始まり、1ヶ月もすると、どんな醤油も同じような味わいになってしまう。
そこでヤマサ醤油は、“鮮度の維持”をテーマに新容器を採用。開封後も70日間、味わいが変わらない製品を発売し、消費者に新しい提案を試みた。
鮮度という新しい切り口は、消費者に支持され、結果は周知のとおり、大成功。醤油市場は縮小しているが、シェア拡大を果たすという《縮小拡大》を実践することになった。
ヤマサ醤油は、その後もこのヒットに甘えることなく「鮮度の一滴」のイノベーションを繰り返している。
現在は、開封後90日間は鮮度維持ができるようになっているし、以前は折ってしまうと醤油の出が悪くなった注ぎ口にも改良が施されたり、製品ラインアップが増えたりと、「発売以来どれほどイノベーションを繰り返したかはわからない」(担当者)ほどだ。
「鮮度の一滴」の成功は、早々と「このマーケットは成熟している」と諦めてしまうことが一番の問題であることがよくわかる事例と言える。
「この世には成熟マーケットなどない」というのが私の持論である。
再度、醤油市場を見てみると、現状は、若い世代の利用量が圧倒的に少なく、購買の中心は50歳以上の世帯なのだという。
これを変えがたい事実と受け止め何もしないのか、市場成長の伸び代と見て若い世代に向けて製品を開発していくのか――。
どちらの考えを取るかによって、その企業の将来は全く違うものになるはずだ。