2013年1月10日。アイリスオーヤマ(宮城県/大山健太郎社長)の賀詞交歓会が開かれた(@ホテルメトロポリタン仙台)。好調同社の大山健太郎社長は何を語ったか?(談:文責・千田直哉)
東日本大震災が起こった2011年3月11日から1年10カ月が経過した。
しかし2012年は、被災地の復興は遅々として進まなかった。ただその分、2013年は、復興が確実に進んでいくものと期待している。
さて、2012年のアイリスオーヤマの状況は、原子力発電所事故に端を発する節電ムードのなかでとくにLED(発光ダイオード)照明は、積極的な商品開発と品質改善に努め、シェアナンバーワンを目指して事業を展開してきた。
生産設備も整備することができ、品質改善も計画通りに進めることができた。
周知の通り、LED照明の市場には、海外を含めたくさんの企業が参入しており、営業環境は非常に厳しかった。しかも毎月のように価格が下がるデフレ状態だ。
しかしながら、当社は、その中でも、電球、直管、シーリングライトの数量面ではトップシェアを維持。また法人需要を獲得することができた。
その結果、LED照明の売上は、対2011年度の2.4倍の240億円を計上した。単価下落の影響で厳しかったが、利益も計画通り確保した。
一方、2012年6月から日本の小売業の前年割れが始まった。主因は“震災特需”のリバウンドだ。
これにともない、下期は、当社の主力商品である収納、園芸、ペットの売上も前年割れを喫し、苦戦した。
その中で当社の得手とする新商品開発のアクセルは踏み続けた。家電製品や調理器具(フライパン、無加水鍋)など順調に推移し、一部商品に至ってはこの年末に商品の供給が間に合わないという事態に及んだ。
こうした中で2012年度のアイリスオーヤマ(単体)の売上高は対前年度比10%増の1100億円、経常利益は同71.2%増の101億円を計上。両者ともに過去最高を記録することができた。2013年度は1350億円の売上高をめざしたい。
次にグループ経営について話したい。アイリスオーヤマは19社のグループ企業を抱えている。
2012年は欧州の金融不安、アメリカの不景気と海外市場は冷え込んでいたが、アイリスオーヤマヨーロッパ、アイリスUSA、アイリスコリアの3社は増収増益と順調だった。
もうひとつは中国の大連を中心とするアイリスチャイナグループだが、これは昨年9月の尖閣列島の問題があり、当社の直営店舗においては、売上高2割減と振るわなかった。ただし、チャイナグループ全体としては増収増益であり、胸をなで下ろしているところだ。
国内のグループ会社に目を向けると、ネット通販を手掛けるアイリスプラザ(宮城県/大山健太郎社長)の2012年度の売上高は対前年度比35%増と絶好調。2013年度のアイリスプラザのネット部門の売上目標は200億円を突破すると見ている。一方、ホームセンター部門のダイシンカンパニーは、“震災特需”のリバウンドの影響で売上高は前年を下回った。ただ利益面では計画通りの数字を残している。
それとオフィス家具などを製造販売しているアイリスチトセ(宮城県/大山富生社長)とホートクは2ケタの増収、2ケタの利益率を達成。順調に売上、シェアを伸ばしている。
また、カイロや脱酸素剤を製造するアイリス・ファインプロダクツ(宮城県/大山富生社長)は売上を伸ばしている。岩手県釜石市に生産拠点がある企業なのだが、被災地であるために、人材の採用がなかなか難しい。そこで宮城県の大河原工場を増築することで4月から増産体制を構築する。
こうした結果、2012年度のアイリスオーヤマグループの売上高は2500億円、経常利益は240億円を計上している。厳しい環境下ではあるが、何とかこのような数字を残すことができた。
2013年度は、自由民主党の安倍晋三政権が誕生した。アベノミクスを打ちだし、デフレを克服すると意気軒昂であり、1ドル78円だった円高は88円の円安に一変。株価は9000円前後から1万600円超までに回復してきた。
年末年始は少し明るい気分で迎えることができた国民が多かったのではないだろうか?
しかしながら、2012年と2013年では何が変わったのかとよく考えてみれば、経済環境は何も変わっていない。
とくに個人消費においては、将来への不安からオカネが消費に回っていない。この状況は政権が交代しても変わらないものと見られる。
安倍政権の旗印は「デフレ脱却」であり、経済界としてもデフレからは一刻も早く抜け出して、安定成長モードに入っていきたいところだが、私はますますデフレに向かっていくのではないかと考えている。
それというのも、大手小売業がプライベートブランドをつくり、価格を下げているからだ。
現在は、そういう中での円安ということになるわけだ。
円安状況は、輸出企業にとっては収益改善に貢献するはずだ。逆に、アイリスオーヤマは、大連を中心とした海外からの商品調達の比率が非常に大きい。ということは、円安は当社にとってはアゲンストになる。
ただ、良く考えてみると、当社と競合している商品や企業の所与の条件も一緒である。
ゴルフにたとえれば、フォロー風の時には実力の差はあまり出ないが、アゲンスト風になればなるほど実力のある選手が優勝するものだ。その意味では、当社は、アゲンストの中で、競合メーカーやプライベートブランドに対して優勢をキープしたいと思う。
そのために商品のコスト改善にはいっそう注力する。たとえば、大連工場では無人化が進み、生産性の向上が図られている。競合他社との比較で言えば圧倒的な優位性を保持していると自負している。
そして、当社がもっとも得意とする新商品開発を2013年度はより積極的に展開したい。
2012年度の売上高に占める新商品構成比率は56%だった。これを2013年度は60%に上げたい。そのコアになるのが家電製品だ。
日本市場では、家電メーカーが不況で大変厳しい状況にある。その中でアイリスオーヤマが家電製品で業績を伸ばすことができるのかと懸念している向きは少なくない。
だが、当社はメーカーベンダーというプラットフォームを持っており、実際に家電を販売している大手量販店から「アイリスオーヤマに期待したい」と言う声が直接入ってくる。
当社は過去、ユーザーイン発想で生活者視点でソリューション型の商品を開発してきた。昨年の家電のヒット商品である掃除機や加湿器もいままでになかった切り口で需要創造型の商品だった。
その延長線上で見れば、白物家電の分野でも独自性を出せるだろうと考えている。
また、昨年末に「アイリスオーヤマが白物家電に進出する、大阪の家電メーカーの社員を大量に採用する」と報道された。
その通りであり、この春には大阪にR&Dセンターを新設する。すでに10人の技術者は内定しており、あと10人、合計20人を大阪R&Dセンターの常駐にする予定だ。
今後は、宮城県角田市の中央研究所をメーンに、中国深圳と大阪の3ヶ所のR&Dセンターでうまく連携させ、家電製品開発のスピードを上げていき、その中で需要創造をしていきたい。
家電製品の中にはLED照明も入る。今年は全国各地の電力会社が大幅な値上げを予定しており、昨年以上に節電需要が大きくなると予想できる。LEDメーカーも淘汰されてきた。最終的には国内4~5社のメーカーに収斂されると思う。
当然、当社はその勝ち組の1社として、さらなるシェアアップを図りたい。
LED照明の2013年の売上高は少し手堅く、売上380億円を計画する。
LEDも380億円の規模になると、いまの生産体制では供給が難しくなるはずだ。
今まで当社は大連工場を中心に設備投資をして増産体制を構築してきた。しかし、今や中国と日本の関係はデリケートになっている。だから、大連中心の中国一辺倒から再度生産のバランスを見直したい。そのために国内回帰をしていこうと考えている。
今年後半からのLEDは鳥栖第二工場でも増産させる。
家電商品、LED照明、それ以外の新しい分野に積極的にチャレンジしていきたい。
2011年は挑戦の年だった。2012年は飛躍の年であり、この2013年は躍進の年になる。