過日、新幹線に乗ると、車内が異様にやかましい。
耳を澄まして、音源を辿っていくと、子供が大きな声で泣いているからだった。
不思議なのは、いつまで経っても、子供が泣き止まないことだ。途中、人の肌を手で叩いているような音も聞こえたような気がした。
あまりにも長い時間、泣き止まないので、ちょっと覗いてみようと思ったら、その寸前に女性が子供を抱きかかえて、デッキに出て行った。
それで泣き声は、ほとんど聞こえなくなったのだが、乗車客が行き交い、自動ドアが開くたびに微かに泣き声のようなものが漏れ聞こえてきた。
幼児虐待?
そんな四文字が頭に浮かんだものの、確証がないし、現行犯でもないので、注意さえできない。
何となく、そんな感じがするだけであり、動くに動けなかった。
周囲の乗客も同じようであり、何ともいえない重い時間がただ過ぎていくのを待っているしかなかった。
政府広報や警察署は、幼児虐待の気配を察知したならば、確証がなくとも連絡するようにと言っているけれども、わが身になって考えると、なかなかできないもの、ということが分かった。
結局、まったく何もできないままに、親子を残して、私は京都駅で降りてしまった。
その後のことは当然知らない。