名古屋発の「コメダ珈琲店」が、ローカルな喫茶店だというのは過去の話。すでに47都道府県への進出を果たし、ナショナルチェーンの地位を確立している。コロナ禍を通じて業績は今も好調、ビジネスモデルへの注目度も高い。そこで京都市内の店舗に足を運び、その独自の出店戦略や魅力などを地元民の視点から考えてみた。
平安京のメーンストリート
今回の行き先は、京都市中京区の「コメダ珈琲店 二条駅前店」。オープンは2010年12月。コメダにとって08年12月の八幡店(京都府八幡市)、10年5月の宇治店(京都府宇治市)に続く店である。
京都府3号店ではあるが、私の住む京都市という条件だと1号店になる。注目は、その立地。地元民から見ると大変興味深く感じる。
普通、有名な飲食店が京都市内に初進出する場合、「河原町」や「烏丸」といった賑やかなエリアに出る場合が多い。人が集まる繁華街やビジネス街は、厚い市場が広がるほか、知名度を高める効果も大きいためである。たとえばスターバックスは、同エリアの四条通沿いに1号店を投じた。
一方、コメダが店を構えたのは、店名からもわかるようにJR西日本山陰本線の二条駅前。業界通の専門家やアナリストからは、「あえて市中心部から外れたところを選ぶ、コメダらしい戦略だ」といった物知り顔のコメントが聞こえてきそうである。
しかしこの場所、かつて“超”一等地だったことを知っている人はどれだけいるのだろうか。「かつて」と書いたのは約1200年前、平安時代のことだからだ。
店が面している「千本通」は、平安京のメーンストリート「朱雀大路」にあたる。この通りは、天皇が住んでいた「内裏」、政治を執り行う各官庁などが配置されていた平安京の正門「朱雀門」から南へまっすぐに伸びていた。「朱雀門」からの距離も絶妙で、約200mの至近である。
つまり二条駅前店は、当時の地図と重ね合わせると、平安京を象徴する門の真正面に店を構えていることになる。地元民としてはスゴイことだと思う。世が世なら、平安貴族が出勤前、コメダ珈琲店でモーニングセットを食べるという光景が見られたかも知れない。
「平安時代の話を持ち出すなんてナンセンス」と笑う人もいるはずだ。しかし京都では、歴史的人物や事象はかなり身近である。以前、私は京の台所として知られる「錦市場」を取材したことがあるが、理事長は歴史について「豊臣秀吉」の話から始めた。また祇園祭の時期には、「応仁の乱」前後で山や鉾の配置がどう変化したかを示す地図が、当たり前のように売られている。
こう考えると、二条駅前店の立地は1号店にふさわしいと感じている地元民は、少なくないのではないか。
コメダが事情を知って出したかどうかはわからない。だが、もし狙ったとすれば、京都人の心をがっちり掴む、ユニークな戦略であると言わずにいられない。
一切れ食べギブアップ
そんなことを考えながら、ある日曜日、私はコメダ珈琲店二条駅前店にやってきた。朝食をとるのが目的だ。時間は朝9時過ぎにもかかわらず満員。しかしお客の入れ替えが続き、運良く座ることができた。
早速、メニューに目を通し、何を頼むかを検討する。やはり京都市1号店なので厳選したいところだ。
まず目にとまったのは「ミニサラダ」(税込260円)。「ミニ」だから軽くいけるだろうと考えた。次はメーンの食べ物だが、散々悩んだ挙句、見栄えがする「カツパン」(同970円)を選ぶ。飲み物はもちろんコーヒー「コメダブレンド」(同540円)に決まりだ。
注文品が来る間、店内を観察するとお客は20〜70代と、年齢層は比較的幅広かった。地元の人だけでなく、大きな荷物を持っているところからすると、観光客も多いようである。
しばらくして到着したのはコーヒーとサラダ。「ミニ」とあったのに、意外にボリュームがある。テーブルにあったドレッシングをかけいただく。ポテトサラダの量が多く、食べ終わった時には、そこそこお腹が膨れていた。それでもパンを食べるぐらいの余裕はあると、タカを括っていた。
数分後、私の目の前に置かれたカツパンは、予想をはるかに超える大きさだった。目測だが横20cm×縦10cm×高さ7cmはあろうか。見ただけで、一人ではダメだと感じた。
よくメニューの写真と実物が違うのを「写真詐欺」と表現される。しかしコメダの場合、実物は写真を大きく超えるサイズ、ルックスであるため「逆写真詐欺」と言われているのを忘れていた。カツパンは三等分にされていたが、案の定、一切れを食べただけでギブアップした。
残りはどうするか。
迷った後、思い切って持ち帰りができるかを若い女性店員に質問する。「しばらくお待ちください」と言った彼女が戻ってきた時には、手に容器を持っていた。ちょうど残りのパンが入るサイズだった。無料でいただけるとのことである。
行列ができていたため、お勘定を済ませてすぐ帰ろうとしていたところ、別の女性スタッフが「これ、使いますか?」と紙の手提げ袋をくれた。「お荷物になりますが、どうぞ」と言って彼女は厨房の方に帰っていった。
そう、コメダは接客にも力を入れており、社内でコンテストも開催しているという。これは各地で人気が出るのも頷けると思いながら、私は帰路についた次第である。