(昨日の続きです)
私 著書に『一勝九敗』(新潮社刊)があります。「一勝九敗」は、現実の柳井さんの経営を良くあらわしている言葉であり、実際に多くの事業を起こし、また撤退する速度も速い。
柳井 速いかどうかは分かりませんが、儲からないものや将来性がないものをやっていても仕方がないので撤退しています。ただし、事業とは、実際にやってみるまではわからないものであることも事実です。
僕はあらゆる計画というのは全部、“机上の空論”だと言っています。だから、わからなかったら、やってみることが大事だと。だからやってみって、「失敗したな」と思ったら、そこですぐ引き上げてしまう。そうすれば企業は潰れないものなのです。
ただそれでも、これまでを振り返ると、新規事業については、「やりすぎたな」と反省もしています。
日本のアパレル業界のチェーンストアで一番悪いのは、あるブランドが成功すると、また違うブランドを立ち上げることです。それで大失敗する。だから少なくとも年商1000億円までは、ほかのブランドを立ち上げてはいけないと考えています。ほかの業種でもたぶん同じでしょう。
私 ファーストリテイリング(山口県)は、セカンダリーラインの「g.u.」(ジーユー)が好調です。
柳井 確かにうまくいき始めているけれども、最初はもうメチャクチャでした(笑)。
私 「g.u.」は、惨憺たる業績が続いたにもかかわらず、なぜやめなかったのですか?
柳井 これは本業だと思ったからです。一般的に、品質を追求しながら、プライスを追求することはありえません。だからこそ、これを実現できれば、低プライスのチェーン店には、ものすごい需要があると考えました。それで続けたのです。あれは本業です。
そして、「g.u.」の社長は、撤退した野菜事業「SKIP」の柚木治(ゆのきおさむ)なのです。
「SKIP」では、約20億円の損失を計上しました。だから彼に言ったのは、「これを10倍返しで返してくれ」と(笑)。彼も「SKIP」をやった経験が生きていると思いますよ、今。
私 失敗が糧になっている。
柳井 糧ですよ、失敗は。ほんとに勉強するのは失敗したときです。うまくいっているときは、全部、結果オーライですから。
うまくいっていると、「やっぱ俺は能力あるんだな」って錯覚するわけです。誰もが。本当は大したことはないにもかかわらず。
私 確かにそうかもしれません。
将来的には「《ふだんの服》のSPA型専門店」は《ふだんの住生活》《ふだんの食生活》に再度、広がっていく可能性はあるのですか?
柳井 いや、もう服だけに徹したいと考えています。われわれが期待されているのは服なのですから。
現在、世界中の服でもっとも新しくて、未来を感じる服は、スポーツウェアです。だから、できればスポーツウェアを超えるものをやりたい。
私 テニス界では、支援している錦織圭選手、国枝慎吾選手も大活躍です。
柳井 (笑)。思いがけず、すごく活躍して。いいことですし、われわれの企業にとっても、すごくプラスになっています。
私 4月2日には、錦織圭選手仕様のテニスウェアや関連グッズをユニクロ銀座店とインターネットで発売します。ユニクロがテニスに参入して感じたのは、今後、「アディダス」「ナイキ」「プーマ」といったグローバルブランドと真っ向から勝負するのだろうということです。
柳井 そこに迂闊に出て行くわけにはいきません。われわれは、可能であればスポーツウェアに出たいというよりも、《スポーツウェアを超えるもの》にしたい、と考えています。これはどうなるかわかりません。
ですから、われわれにすれば、二人の選手は、親善大使のような存在になります。活躍してくれれば、われわれにとってはすごく嬉しいし、大きなビジネスチャンスだと思います。
(明日に続く)