流通業界も長くいると、個人的に思い入れの強い企業というのはどうしても出てきてしまうものだ。
私にとっては、愛知県に本拠を構えるヤマナカ(中野義久社長)がその中の1社である。
入社後、すぐに『チェーンストアエイジ』誌編集部編として上梓した『日本のスーパーマーケット―優良10社の成長戦略―』(ダイヤモンド社刊、1993年)で私が執筆を担当した2社中の1社がヤマナカだったからだ。
右も左も分からない駆け出しの私に実に様々なことを教えてくれたのはヤマナカだった。
ヤマナカは、今年2月に創業90周年を迎えた老舗の食品スーパーマーケット(SM)企業で、現在、愛知県、岐阜県、三重県に67店舗を展開。売上高は1002億円に上る。
そのヤマナカが1月27日に「経営刷新策」(=リストラ策)を発表した。
骨子は3つから構成される。
(1) 経営責任の明確化
① 役員報酬の減額
② 執行役員制度の廃止
③ 管理職給与の減額
(2) 事業再構築に向けた施策
① 店舗のスクラップ&ビルド
② 希望退職者募集の実施
(3) 営業強化策
① 店舗業態の見直し
② 価格政策、商品構成の見直し
③ 商品開発の強化
中京圏のSMの雄として、長い間、上位企業の地位に君臨してきたヤマナカに転機が訪れたのは1997年、前社長の中野富彦氏が現職中に倒れ、急逝してからだ。
その後、2011年まで代表権を持つ中野義久社長、小出長徳会長の2頭政治で経営を司ってきた。
しかしながら、聞くところによれば、「船頭が2人いたことはヤマナカにとっては必ずしもプラスには機能しなかった」ようで、多くの企業にあるように従業員を内向きにさせてしまったのだという。この数年間のうちに数度お会いした中野義久社長は確かに就任前のような元気が消え失せ、どこか晴れないような表情を見せることが多かった気がする。
ヤマナカの元気のなさは、売上推移が何よりも物語っており、1993年に1000億円の大台を突破した時にはSM業界全国第10位。しかしながら、この20年間は、展開店舗数は増やせども、ほとんど上積みされることはなく、低迷を続けていた。3000億円規模の企業が続々誕生している一方で現在は29位とずいぶん多くの企業にも追い抜かれてしまった。
しかも、ここ数年、中京圏の競争は熾烈を極める。
ユニー(愛知県/前村哲路社長)を軸に、岐阜県からバロー(田代正美社長)が出店攻勢をかけ、滋賀県からは平和堂(夏原平和社長)、和歌山県からはオークワ(福西拓也社長)が進出し、今以上に厳しい商環境になることは間違いないだろう。
ただ、創業90周年という記念すべき年にあえてリストラ(事業の再構築)政策を発表したヤマナカに不退転の決意を感じる。
経営立て直しに遅すぎるということはない。
自社の得手と不得手を分析して、時代やトレンドに流されることなく、しっかり手を打つことで、再起を図ってほしいと切に願っているのである。