おとといの名古屋は強い風が吹き、体感温度は東京よりも5度は低く感じた。そんななか、アルペン(愛知県)の水野泰三社長を本社に訪ねた。
話が終盤に差し掛かったところでTVCMの活用がうまい理由について尋ねた。以下は、水野社長の話(談:文責・千田直哉)
お金がなかったからですよ。有名なアーチストやタレントを起用すると3000万~5000万円と請求される。そんなお金はないから、無名のシンガーソングライターを起用してみたのがきっかけです。
歌手の名前は、広瀬香美。当時はシングルCDを2枚出していたアーチストでしたが、売れていなかったですね。
でも「これは!」とピンときて、彼女を登用。1993年に3枚目のシングル曲『ロマンスの神様』を当社のCMソングとして流すと大ヒットしたんです。
売上枚数は170万枚を超え、1994年度のオリコン年間順位の第2位にランクインするに至りました。
これには裏話があって、広瀬香美さんの新曲リリースに、ビクター音楽産業(現:ビクターエンターテイメント)さんも所属事務所のオフィスサーティーさんも新しいCDの発売を逡巡して、乗り気ではありませんでした。
そこで当社を含めた3社で費用を折半する形にして制作に着手し、彼女を再度売り出すことにしたのです。
実は大ヒットしたことによって、製作費を出した当社にもCDの販売による売上が入ってきました。
通常、TVCMとはコストのかかるものなのだけれども、逆にプラスになった、という類まれなケースになりました。結局、その年の広告費は行って来い、だったように記憶しています。
レコード会社も芸能プロダクションも、どんなに良い楽曲をリリースしても、聴いてもらわないことには始まりません。ところが当社の場合は、良いと思われる曲を選んでCMでたくさん流すから、売れるのです。
実際、1996年のCMソングである『DEAR…again』は、広瀬さんが1993年に出したアルバムの中の1曲に過ぎませんでした。しかし、若干のリメイクをしてシングル曲としてリリースしたところ、80万枚を売ったのです。
広瀬さんのケースでは、広瀬さん、レコード会社、芸能プロダクション、当社の4者がWIN-WINの関係になることができ、いまだにお付き合いが続いています。
しかも、その後、いろいろなところから、楽曲の持ち込みがありました。
アルペンの広瀬さんを交代させるわけにはいきませんので、「kissmark(キスマーク)」という別ブランドのイメージソングを担当してもらったりしており、そこから当社のTVCMが好循環に入っていったのです。