京都は人気観光地であるため、宿泊施設が充実している。さらに近年、ニーズの多様化に伴い、ユニークなホテルも増えている。宿は旅の楽しさを左右する要素であり、どこに宿泊するかにもこだわりたい。その中、今回、市内中心部にあるおしゃれな「デザイナーズホテル」で宿泊ならぬ、食事をしてみたという企画である。
家族で旅館に宿泊したスティーブ・ジョブズ
旅行で訪れたい都道府県ランキングでは、常に上位につけている京都府。ここ数年はコロナ禍で閑散としていたが、直近は以前の賑やかさを取り戻している。
観光する場所選びはテーマを設定するなど工夫すると楽しいが、どこに宿泊するかにもこだわりたい。コンセプトや部屋の雰囲気、サービスのほか立地により旅の印象は大いに違ってくるからだ。
一般に、宿泊施設と言えばホテルを思い浮かべる人は多い。しかし京都へ旅行する場合、個人的には旅館も選択肢のひとつとしてオススメする。
本題から外れて恐縮だが、京都を訪れる著名人が、実は旅館を利用していたという話もよく聞く。有名なところでは、Apple共同創業者の1人、スティーブ・ジョブズ。家族とともに宿泊したと言われているのが京都市中心部にある「俵屋」。「柊屋」「炭屋」と並び、京都三大旅館のひとつと言われ、同氏は料理を含めて京都の文化を堪能したと想像する。
文豪がそれらの旅館に籠って原稿を執筆していたというのも何かで読んだことがある。ご興味ある方は、京都への旅行計画の際、検討してはどうだろうか。
閑話休題。ここ数年、旅行へのニーズが多様化するのに伴い、ユニークな宿泊施設も登場している。そのひとつはおしゃれな「デザイナーズホテル」。一般には、建築やインテリアが優れたホテルと定義され、ここ京都でもじわり増えている。
今回、足を運んだのは京都市中京区にある「node hotel」だ。開業は2019年7月。年が明け、すぐにコロナ禍となったので、ここ数年は苦難の時期を過ごしていたはずだ。
それにしても、なぜ私がこのホテルに行ってみようと考えたのか。それは生活圏なので、前を通る機会もたびたびあり、ずっと気になっていたからだ。調べると、独立系で、チェーン展開していないのも興味をそそられた。ファッショナブルな人が出入りしていたのもポイントが高かった。
公式Webサイトで予習すると、宿泊施設がめざすのは「アートコレクターの住まいのようなホテル」だという。この時点で私はまだホテルに足を踏み入れていなかったが、何やら期待が、超高まりまくっている自分に気がついた。
料理を食べ、思わずブォーノ!と叫ぶ
5月某日──。私はnode hotelの前にいた。知人同士で、1階にあるイタリアンダイニング「node」において会食をするためだ。地元なので宿泊せず、この個性派ホテルでスタイリッシュな夜を過ごしたいと考えた。
建物に足を踏み入れると、そこは異空間だった。外から眺めていたのとは、全然違う、洗練された空間が広がっている。照明の配置も計算されているのだろう、人が立っているだけでも絵のように感じた。
コンクリートの打ちっぱなしの壁には、数々の作品が掛かっている。いずれも有名アーティストによるもので、三島由紀夫が花を咥え、鋭い視線をこちらに向けているモノクロ写真、またレディー・ガガが縛られているものもある。後者は、アラーキーこと、荒木経惟によるものだ。
早速、食事である。われわれが注文したのは、5種類の料理が出てくる4800円のコースである。利用しやすい価格設定に好感が持てた。
最初は前菜3種盛り。京都の野菜を使ったオムレツ、自家製のポークハム、低温調理した水菜、キノコのあえ物。まずはオムレツからいただく。ブォーノ!あえ物は、イタリア料理なのに山椒の風味がきいているのが斬新だ。
続いて本日の一品として出てきたのは「エビのマスカルポーネ」。
店内は、テーブルの上に美術書が飾られているほか、調度品にもこだわっており、その場にいるだけで特別な気分になれた。店内はほぼ満席で、どのテーブルからも笑顔がこぼれている。
その後、本日のパスタとして「しらすとノリのアリオリオ」、そしてメインの肉料理が出てきた。もちろん、どれもおいしさ満点。最後に、フルーツの盛り合わせ、コーヒーをいただき、ごちそうさまをする。
こういう夜もいいものだ。気の置けない仲間と集まり、洗練された空間で食を楽しむのも、豊かな時間だった。
ホテルゾーンへは行けなかったが、Webサイトで確認したところによると、25ある部屋はどれも素敵である。食事中、上階へ通じるエレベーターに乗り込む宿泊客を数組目にした。お酒が入っていたからそう思うのかもしれないが、皆さん、なんだかいい感じだったな。
もうお腹がいっぱいである。幸せな気分に包まれ、私たちは建物を出た。