(マラソン好きの)Nさん「昨日の《別府大分毎日マラソン》はTVで観た?」
私「観ました。カンボジアからロンドン五輪出場をねらうお笑いタレントの猫ひろしさんが2時間30分25秒でゴールしましたよね。四六時中、応援に来ていた道路沿いのファンに手を振っていたけど、あんなことしなければもっと速く走れたんじゃないかな」
Nさん「まあ、まあ。猫さんのことは置いておいて…。1位になった選手の走りを観た?」
私「あー、アフリカの選手でしたよね。2位はモンゴル、3位がアフリカで、4位が日本の松村康平選手だった」
Nさん「なんだよ。日本人以外は、興味ないみたいだね」
私「そうですね。あまり思い入れもないし…。またアフリカ勢にやられている、としか思わないですね」
Nさん「まあ、そりゃ仕方ない。ちなみに2時間9分38秒で優勝したのはアルン・ジョロゲ選手で国籍はケニアだから」
私「ケニアかあ。そういえば昔、『少年ケニヤ』ってありましたよね。日本人の孤児ワタルがアフリカのケニアで冒険するストーリーの――」
Nさん「そうそう。そのケニアだよ。いま男子マラソンの世界歴代ベストタイムは、10傑中9人の国籍がケニアなんだよ。1位のパトリック・マカウ選手は2011年9月25日のベルリンマラソンで2時間3分38秒を出した。残りの1人はエチオピア。そんなふうにアフリカ勢が圧倒的な強さを見せているけど、アフリカ大陸出身の人たちが突出した身体能力を持っているからだと思っていない?」
私「当然思っていますよ。アフリカ大陸出身の人たちは、サッカーでも1人でゴール前までボールを持って行っていとも簡単に決めちゃう。あんなにバネの強い日本人選手にはいませんよ」
Nさん「それはそうかもしれないけど。やっぱり貧しさからくるハングリー精神にあると僕は思うよ。ケニアは1963年に英国から独立した若い国。主要産業は農業。人口は4000万人弱で1人当たりGDP(国内総生産)は世界84位(2008年)だからね。ケニアの選手は明日の生活を賭けて練習している。それである程度、稼げるようになると、走るのをやめちゃうんだ。子供には英才教育を施して、別の道を歩ませたりすることが多いらしい。ひとつのアフリカン・ドリームだよね」
私「なるほど。そうなんですか? 確かにケニアとの比較で言えば、日本の選手には、走らなければ明日の生活さえままならないという切実なハングリー精神を感じませんよ」
Nさん「日本人のとくに男子は才能のところだけで勝負しているように見えるよね。だから勝てない。マラソンをしなければごはんが食べられない選手っていないもんね。あるレベル以上の選手は優良企業の陸上部に所属しているしねえ」
私「そうですね。そこ行くと、埼玉県県庁に勤める市民ランナーの川内優輝選手には、ちょっとしたハングリー精神を感じますね。実業団からの誘いを断って自己流の体調管理でレースに臨んでいる。レースに出ながらを鍛錬を重ねるというのも斬新です」
Nさん「食事から練習方法から、他人に任せて管理している選手とは明らかに違うよね。それがいいことなのか悪いことなのか、ハングリー精神と言えるのかどうかは分からないけれども、既存のシステムに対する挑戦であることは間違いない。2月26日の東京マラソンが彼の本命のレースらしいから、しっかり見せてもらいましょう」