大晦日。あるメンズアパレル企業の販売員Nさんは、病院を訪ねた。
とくに体調が悪いわけではなく、手には掃除セット一式。
12月30日時点で、売場の売上実績は、予算に対して約30万円足りなかった。
そこでNさんは、自らが店長を務める百貨店の紳士服売場に行くのではなく、病院へとクルマを走らせたのである。
午前8時に訪問し、Nさんは黙々と病院の年末清掃にいそしんだ。
作業を終えて時計を見れば、時刻は12時。
今度は、病院の主であり、上客である医者とゆっくりと昼食をともにする。
「毎度すみません」と恐縮する医者に対して、Nさんは、天ぷら定食のえび天を口に運び、舌鼓を打つばかり――。2人であがりのお茶を飲み終えた頃に、「じゃあ、スーツを4点、送っておくから…」と言って医院を後にした。
約30万円不足していた年度予算は、この売上を加えクリア。Nさんは、予算達成して無事、新年度を迎えることができた。
もう30年も前の話なので、今の世の中に通用するかどうかは分からない。
しかしながら、このエピソードは、登山ルートというのは、数限りなく存在するということを教えてくれる。