戦前に活躍した物理学者で随筆家、俳人でもある寺田寅彦の論文『津浪と人間』が電子図書館の青空文庫でダウンロードされる回数が増え、注目を集めている。
内容については、http://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/4668_13510.html。
昭和8年3月3日に起こった昭和三陸地震とその後に沿岸を襲った大津波についての考察だ。37年前の明治29年6月15日にも同様の規模の地震と大津波が起こっているのに人間はなぜ、学ぶことなく、何度も同じ被害を受けるのか、という素朴な疑問呈示から始まっている。
「(地震や大津波などの)同じような現象は、歴史に残っているだけでも、過去において何遍となく繰返されている。(中略)こんなに度々繰返される自然現象ならば、当該地方の住民は、とうの昔に何かしら相当な対策を考えてこれに備え、災害を未然に防ぐことが出来ていてもよさそうに思われる。これは、この際誰しもそう思うことであろうが、それが実際はなかなかそうならないというのがこの人間界の人間的自然現象であるように見える。」
寺田は、その理由について、
①37年(1万3505日)の経年によって、当時分別盛りであった人間は故人になっているか世間から引退していること
②政府の役人も入れ替っている
③災害記念碑は、山蔭の竹やぶに埋もれるか、読めなくなってしまう
④しかし地震や津波は頑固に、保守的に執念深くやってくる
からだ、と喝破する。
たとえば、いまから37年前に起こった出来事を列挙すると…
石油ショック、新宿住友ビル竣工、ルバング島で小野田寛郎元少尉を発見、ガッツ石松がプロボクシングWBC世界ライト級王座を奪取、北の湖が史上最年少(21歳2か月)で第55代横綱昇進、巨人の長嶋茂雄選手が引退――。
流通業界絡みなら、丸悦ストアがマルエツに商号変更、ニチリウ(日本流通産業)設立、セブン‐イレブンが東京都江東区に1号店出店、大丸ピーコック設立といったところ。
サザンオールスターズはデビューしていないし、タイガーウッズも生まれていない。
そう言う私もティーンエイジ手前の本当の洟たれ小僧であり、この頃のことなどおぼろげにしか覚えていない。
でもでも、覚えておかねばいけないのは、長い歳月を経て、どんなに衝撃的で悲惨で残酷な天変地異も風化してしまうということだ。
だからこそ、風化させないシステムやアイデアを今度こそつくりあげなければいけない。