イトーヨーカ堂の子会社だった頃、ディスカウントストアとして一世を風靡したダイクマ(群馬県/山田昇社長)は、売上高販売管理費率(以下、経費率)16%、粗利率19%というローコスト経営を誇っていた。
一般的に、首都圏内で経費率16%と聞けば、競合企業は「もう価格競争では勝ち目がない」と諦めてしまう。
仮に仕入価格が同じであるならば、経費率が16%の企業と23%の企業では7ポイントの差が出る。16%企業の価格競争力は歴然であり、すべての商品を7%まで安く売って戦う力があることを意味するように思えるからだ。
しかし、実際には、それは幻想にすぎない。
「経費“率”」にはマジックがあるからだ。
経費率の分母は売上高だ。ということは、価格で徹底抗戦する企業が出現し、売上高を半減させてしまえば、経費率は2倍に跳ね上がってしまうわけだ(単純に流動コストはないと想定します)。
ダイクマの場合は、多店舗展開を繰り返すうちに、自社競合(=カニバリ)を起こし、1店舗当たりの商圏人口がどんどん縮んでいった。繁盛店の茅ケ崎店は、最盛期には、100万人規模の商圏人口を抱えていたが、多店化の中で20万人くらいまでに萎んでしまう。
誰もかなわないと思われた鉄壁のローコスト経営は、実は、案外もろく、売上激減で経費率は上がっていくという顛末を迎えた。
当時から、鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングスCEO(最高経営責任者)は、「ダイクマはローコスト経営ではない。売上高が極端に大きいので結果として経費率16%になってしまう」と看破していたが、結局、ダイクマはヤマダ電機に売られることになった。
「打率10割の凄いバッター」と聞くと、一見、抑えられなそうに思えるが、その内容が「1打数1安打」だとするならば、打率のことはまったく気にする必要がないのと似たようなものだ。
このように、率を見る場合は、常に分母がなんであるのかに注意する必要がある。