1960年代の「モダン・フォーク」を端緒にする現代音楽業界とチェーンストア業界は、ほぼ同い年。約50歳だ。
そのヒット曲50年史を綴った『あの素晴らしい曲をもう一度~フォークからJポップまで~(富澤一誠著:新潮新書)を面白く読んだ。
多士済々のアーチストを輩出しながら、順風満帆で成長を重ねてきた音楽業界は、1990年代にCD(コンパクトディスク)やMD(ミニディスク)が普及した辺りから大きな曲がりが度を迎える。
「デジタル・データ的に音楽を扱うというやり方が定着し、じっくりと曲を聴くというよりも情報として曲を出す、キャッチするという傾向が強まっていきます」(P168)。
その結果、つんく♂さんがプロデュースする「モーニング娘。」と周辺ユニット「タンポポ」「プッチモニ」「ミニモニ」「カントリー娘。」などのように音楽を商品として、消費音楽をプッシュアウトすることが主流になっていく。
私が年齢を重ねたこともあるかもしれないが、確かに1990年代以降の楽曲には、以前のように気軽に口ずさめて、心にしみこむようなものはほとんどない。
2000年代に入ると音楽市場は縮小の一途を辿り、ピーク時には6000億円あった総売上高は4000億円まで減少してしまう。
デジタル・データによる楽曲売買やレンタルショップの拡充、ユーチューブの浸透などが主因だろう。
ところが富澤さんは、少し違った見方をしており、この状況を「漁場が変わった」と説明している。
根本的な原因は、主に中学生から20代のヤングマーケット層だったCDの主要購買層が、大きく変わっているにもかかわらず、そこに向けて楽曲を創作、リリースしていないことにあるとしている。
たとえば、アメリカのCDの年齢別購買層シェアを見ると、1999年に40代以上のエルダー層が、15歳から24歳のヤングマーケット層を逆転。2001年には両者の比率は34%対26%と差が開く一方。ドイツなどの先進国でも同じトレンドだ。
にもかかわらず、日本の音楽業界は、そうした自体に対応してこなかった。
「音楽業界の活路は、現在、約4270万人いる40歳以上65歳以下の層をいかに取り込むかにある」と富澤さんは訴える。
なかでも、秋川雅史さん、すぎもとまさとさん、秋元順子さん、森山良子さん、加藤登紀子さん、高橋真梨子さん、谷村新司さん、さだまさしさん、布施明さんなどのカテゴライズしづらい実力派を「エイジ・フリー・アーチスト」と名付け、これからの音楽業界発展のカギを握ると期待する。
成熟時代を迎える流通業界にとっても、音楽業界の凋落と再活性化への取り組みは、他人事とは言えず、とても参考になる。