いまメディアとしてのマンガが注目を浴びている。
新聞、雑誌、書籍の発行部数が伸び悩み、TVの視聴率が落ち込む中で、マンガを使って簡易な表現で、事実を伝えようという動きだ。
マンガがここまで普及する要因には、若者世代の学力と情報リテラシーの低下があるのかもしれないが、必ずしもそれだけとは言えないだろう。
マンガを介したジャーナリズム(=コミックジャーナリズム)の嚆矢となったのは、『はだしのゲン』である。
作者の中沢啓治さんが自らの被爆体験を描いたもので、『週刊少年ジャンプ』(集英社刊)の連載スタートは1973年。原爆の恐ろしさを綴った作品は、毎号毎号、話題を集め、単行本、文庫本を含めた発行部数は実に1000万部超、世界数十か国語に翻訳され発売されている。
マンガを使って経済学の基礎を伝えようとしたのは、故石ノ森章太郎さんの『マンガ日本経済入門』(1986年:日本経済新聞社刊)だ。全4巻の描き下ろしで発行部数は合計200万部。第33回小学館漫画賞と第17回日本漫画家協会賞大賞を受賞するなど一大旋風を巻き起こした。
恥ずかしながら、私も新入社員のころに、会計学を学んだのはマンガだった。
子供のころは「マンガを読むとバカになる」と叱られたものだが、隔世の感を感じるとともに、メディアとしてのマンガのパワーはいまやゆるぎないものになっていると実感する。
それだけではない。新聞やTVなどのメディアの解説、社説よりも鋭い内容で世間を驚かせたケースもある。
『週刊モーニング』(講談社刊)に弘兼憲史さんが連載中の『専務 島耕作』だ。2008年11月の連載では、パナソニック(=初芝)が三洋電機(=五洋電機)を買収するというニュースを先行して描き、見事に的中させた。
見渡せば、海の外にもコミックジャーナリズムの担い手としてのマンガ家がいる。
アウシュヴィッツを生き延びた父親の物語である『マウス』を描いたアート・スピーゲルマンやイスラエルの占領地のヨルダン川西岸やガザ地区に赴き綴った『パレスチナ』のジョー・サッコなどが有名だ。
とっつきやすく、理解しやすい、マンガという媒体はまだまだ変わろうとしている。
新聞やテレビがふるわない一因は、こんなところにもあるのかもしれない。