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目に見えるものは嘘をつく

 故・佐藤栄作(元)首相は、退陣表明記者会見の冒頭で、「テレビカメラはどこだ? 僕は国民に直接話したい。新聞記者は帰ってくれ」と言った。

 この発言に反発した新聞記者陣は、記者会見場から退席してしまい、佐藤首相は一人テレビカメラに向かって、寂しく退陣表明演説をした。

 

 子供だった私は、「たしかにテレビはホントのことだけを伝えるなあ」と感心したものだ。

 

 しかし青年になって、よくよく考えれば、テレビにしてもカメラマンがカメラをどこに向けるかで事実に恣意を加えることはできるし、隠蔽することもできる。また動画を合成すれば、事実をねつ造することだってできる。

 

 ただ、私たちは、自分の目で見たものを絶対的に信じるという傾向が強い。

 実際に目視して確認しているのだから、間違うわけがないと考えるのは当然だろう。

 ところが、この目視というのは案外あてにならない。

 

 典型例を挙げるなら手品だ。

 手品師は、聴衆にわざわざ、タネも仕掛けもないことを確認させてから、騙していく。むしろ前段部分で目を閉じていたほうが騙される可能性は低い。

 

 そう考えていくと、実は、目視とは穴だらけであり、次から次に目の前に現れるさまざまな業界の巧妙な技師たちの前に私たちはあまりにも無防備であることが分かる。

 

 目に見えることを信じることは危険であり、目に見えるものは嘘をつくと常に自戒しておきたい。

 心眼というべきサブシステムもちゃんと磨いておきたいものだ。