実際に声を出さずに録音した音に合わせて口だけを動かす――。
プロの歌手の「口パク」を禁止し、違反者には罰金を科すという公演法改正案が韓国国会に提出され、話題になっている。「口パク」をした場合には1年以下の懲役または1000万ウォン(約75万円)以下の罰金が科される。
そんな韓国で、最近人気を集めているのがTV番組『私は歌手だ』である。
7人のプロの歌手同士によるサバイバルバトルで、それぞれに課題曲が与えられ、2週間の練習後に同じ舞台に上がって楽曲を披露。審査員は一般人500人で評価がもっとも低い歌手は脱落させられてしまう。
次の回には、脱落した歌手の代わりに新しい歌手が参戦してくる。
プロの歌手であれば、大御所も中堅も新人も、関係ない。同じ土俵に乗せて、歌の巧拙を競わせるという単純だが、とても厳しいステージになっている。
よくできているのは、大御所が傍観を決め込んで、この真剣勝負から逃げ回ることができないことだ。出場しないと、「弱虫」呼ばわりされてしまうからだ。
そして、苛酷なサバイバルレースの中で、新しいスターたちが誕生しているのだという。
韓国芸能界でも日本同様、歌唱力よりビジュアル重視の歌手ばかりが目立つようになっていた。
「口パク」禁止法案や『私は歌手だ』などの動きは、そうした流れに対する健全な反動運動と見られる。
韓国にはTV局と芸能プロダクションの癒着がないから、挑戦的な番組制作が可能とも言われているが、鍛錬を積まなくとも昔のヒット曲にすがりつくことができ、麻薬や犯罪で何度、逮捕収監されてもいつの間にか復帰できてしまう、日本の芸能界の甘さは何なのだろうと考えさせられてしまう。