鳥取県日野郡日野町は人口4000人弱の過疎の町。65歳以上の高齢者は38%に上る。
そんな商業には不利な立地にありながら、移動販売を軸にする事業で黒字化を図っている小売企業がある。有限会社安達商事(屋号:あいきょう)である。
安達享司社長は、鳥取西部生協に勤務するサラリーマンだった。ところがバブル時代の真っただ中に同生協は倒産。存続を望む地域住民の意思を受ける形で店舗を人員ごと引き受けスタートを切った。
現在は、食品スーパー5店舗(本店、江府店3店、黒坂店)と移動販売車4台、またローソン(東京都/新浪剛史社長)のフランチャイジーとして1店舗を展開。従業員数39人で売上高約7億円を計上する。経営不振で閉鎖になった生協や農協の店舗を従業員ともども引き受けながら、業容を拡大してきた。
商売の対象としているのは、日野郡の中山間地域に居住する約1万3000人だ。
2006年3月からは、買い物に行きたくてもいけない高齢者のために各集落を巡回する移動販売車「ひまわり」号など4台(3t車1台、2t車2台、軽トラック1台)を運行している。ドライバーは、地域の定年退職者や主婦のパートで人件費を圧縮している。
「ひまわり」号は三菱自動車工業(東京都/益子修社長)とオオシマ自工(山口県/秋元徹郎社長)の共同開発による3t車で自動開閉装置付、側面拡幅機能搭載(1150mm拡幅)などの特徴がある。
約800SKUを詰め込み運行。境港市場の買参権を持ち、当日仕入の鮮魚は売れ筋であり、粗利益率の高い商品として黒字化に貢献している。販売車は移動中に店舗に立ち寄り、品薄になった商品を補充してから、また次の集落に立ち寄るスタイルを採っている。
安達商事のすごいところは、これだけのノウハウを隠すことなく無償で公開していることである。福井県民生協(福井県/竹生正人理事長)が2009年10月からスタートさせた移動販売車「ハーツ便」は安達商事で学んだノウハウ満載である(現在発売中の『チェーンストアエイジ』誌2011年11月15日号の特集「食の砂漠(フードデザート)を緑化する!」の中で紹介しています)。
その「ハーツ便」の情報は、日本生活協同組合連合会(東京都/浅田克己理事長)によって全国の生協に紹介され、各単位生協の移動販売車事業として花開くようになっているから日本の流通業界への寄与度も大きい。
さらに同社は鳥取県と協定を結び、高齢者の見守り事業や障害者の製造する菓子販売など社会貢献事業にも努めている。
また、日野病院(日野町野田)と連携し、2011年7月から「看護の宅配便」を開始。「あいきょう」号の移動販売に日野病院の看護師が同行し、買い物客の健康相談にのり、診療のご案内や健康管理のポイントを伝えている。
ホントに安達商事こそが「日本でいちばん大切にしたい会社」である。