世界のマグロの4分の1を消費してきた日本――。
現在、その自給率は4割前後を往復している。海外での日本食ブームや中国富裕層の食の高級化が相まって、国際市場で日本がマグロを調達できないという“買い負け”現象も起こっているためだ。ぼやぼやしていると、早晩、私たちの口にもマグロは入らなくなってしまうだろう。
こうした中で革新的な進化を遂げているのが、マグロの養殖技術である。
これまでの養殖は、30cm規模の幼魚を海で捕獲し、生簀で出荷できる大きさまで育てるのが一般的だった。ところが、総合商社や水産大手企業が続々参入を決める中で、幼魚さえ、確保が難しくなってきた。
そのことがさらなる養殖技術のイノベーションを推し進めているようだ。
2002年には、近大水産研究所長の農学博士熊井英水さんがクロマグロの完全養殖(人工孵化から育った親魚が産んだ卵を再び孵化させる)に成功。いまでは、株式会社のアーマリン近大(和歌山県/大原司社長)が設立され、完全養殖の「近大マグロ」などの販売を手掛ける。
こちら東京海洋大学の吉崎悟朗教授は、2002年に「分離始原生殖細胞の移植による生殖細胞系列への分化誘導法」を発明し、特許を出願した。
種を保存するという観点から、種類の異なる魚種間で精子と卵子を育成する「異魚種間借り腹技術」が発想のもと。最近は、これがどんどん発展して、マグロの養殖技術へと応用するに至っている。
具体的には、サバの卵から孵化する稚魚に、マグロの精子と卵子のもとになる始原生殖細胞(卵と精子の両方に分化できる唯一の細胞)を注入すると、2年後にはオスのサバにはマグロの精巣がメスにはマグロの卵巣が育ち、マグロの卵を産むというものだ。
まだ、実用化されるまでには時間がかかるものと見られているものの、なんと、サバからマグロが獲れる時代――。「窮すれば通ず」とは、このことだ。