メニュー

あるJA全農役員のTPP考

 TPP(Trans-Pacific Partnership)とは、環太平洋戦略的経済連携協定のことであり、2006年5月にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国加盟で発効したことがルーツ。2010年10月からは、アメリカの主導で急速に推し進められるようになり、2011年のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)までの妥結を目標にしている。菅直人首相は、「明治維新、第二次世界大戦後に次ぐ、第三の開国」と位置付け、TPPへの参加を表明している。

 

 この参加に反対を表明しているJA全農のある役員からTPPに関する考え方を聞くことができたので記しておきたい。(以下、談:文責・千田直哉)

 

 JA全農が取り扱う国産の農・畜産物は、日本国内市場においては競争力があると確信している。だからJA全農では、それをよりどころにしながら事業展開している。

 

 ただ、国産の農・畜産物に国際競争力があるかといえば、難しいところがある。

 問題は何よりも、コスト面の大きな違いである。たとえば、1戸当たり250haを持っているオーストラリアと、同数haしかない日本では決定的に生産効率が異なる。

 日本では田植え機で苗を植えている一方で、向こうは麦の種をヘリコプターで撒いている。どちらがコストダウンできるかは明らかな話であろう。加えて、土地の値段も人件費も大きく異なるから、価格面で国際競争力は持ちえない。

 だから闇雲なTPPへの参加は、日本の農業保護の立場から反対である。

 

 日本の農・畜産業の比較優位の要素である「安全・安心」「品質」を上げて、輸出で稼げばいいという意見がある。確かに輸出は期待できるので、それは否定しない。

 しかしながら、我々の試算によると、TPP参加後に、農・畜産物の輸出が見込めるのは日本の農家が生産する8兆円のうちのわずか1500億円であり、これは一定の塊とはいえない。

 

 TPPが締結されれば、日本のカロリーベースの食品自給率が現状の40%から14%に落ちると言われている。そんな国が輸出をするなんて飢餓輸出そのものだ。

 

 しかも、生産物を輸出するよりは、日本の農業技術を輸出した方が手っ取り早い。実際にいま中国には日本の農業技術者が行って、農業指導して技術移植をしており、早晩、品質面でも日本に追いつくだろうから、輸出という道も疑問符だ。

 

 もうひとつ。参加しなくても良い理由は、関税障壁の話である。

 現状、コメは778%の高額関税なのだが、それ以外のものは大体5~10%だ。玉ねぎは10%。それ以外の野菜は5%と大きな差はない。 

 そういう点で野菜は、TPPに参加しないでも国際物流の仕組みが進歩すれば、もっと自由に行き来するようになるはずであり、ここでTPPに参加する意味が見いだせない。

 

 最後に、食糧安全保障や日本の農業には日本人の食糧だけではなく日本の伝統や文化、気質などを培ってきたことを考えると、そういったものの維持することに対して国民がコストを払うことは必要だと思う。

 単純に農・畜産業を保護したいからTPP反対を言っているわけではない。それはある意味では、間違っていないけれども、農業だけではなく、日本の伝統文化まで破壊されてしまうという理由も大きい。

 

 日本政府は、そんなことを再考し、熟考しなければならない。