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「キリンフリー」、サクセスストーリー

 アルコール0.00%で、飲酒運転のない社会を目指して

 

 今年の大ヒット商品「キリンフリー」のキャッチコピーである。

 

 このコピーにも現れているように、「キリンフリー」は、元々、飲酒運転をさせないためのソリューション型商品として開発された。

 

 だからかもしれないが、4月8日の発売当初の販売計画は63万ケースと控えめ。しかしながら、現状は、そんな予測を遙かに上回る年間350万ケース超の出荷ペースで推移している。

 

 このヒットに喜びながら、困ってしまったのは、3月26日にキリンビール社長に就任した松沢幸一さんだ。取引先への就任挨拶が「欠品させて申しわけありません」「需要の見通しが甘くて申しわけありません」と頭を下げる謝罪行脚になってしまったからだ。増産体制を確立するまでには5月下旬まで要してしまったという。

 

 誤算の最大の原因は、「飲酒運転を回避するためのソリューション」のみの需要を考えていたことにあった。

 

 しかしながら、実際には、消費者の方が「キリンフリー」を飲むシーンをつくりだしていることが、数多くの意見が寄せられる中で判明した。

 

「アルコールを飲めない体質でしたがこれなら飲めます」「病気で余命数ヶ月の父が最期まで飲むことができました」「妊娠時は飲めないことがストレスでしたがこれならOK」「ヘビードリンカーですが休肝日に飲みます」など。いまだに1日当たり40~50件の意見があり、「こんな商品はこれまでなかった」と松沢さんの目尻は否が応にも下がっていく。

 

 お笑いコンビ、ダウンタウンの松本人志さんは、自著『遺書』(朝日文庫刊)の中で「視聴率が30%を超えるような番組は、制作者の意図とは違うところが受けている」というような意味のことを書いていた。

 

「キリンフリー」も同じで、開発した本人の狙いを超越した潜在需要が隠れていたということだろう。

 

 とはいえ、時代にマッチした商品を開発したことは、やはりキリンビールのマーケティングの勝利。価格一辺倒の風潮の中で、価値創出型商品のこんなサクセスストーリーには実にワクワクさせられる。

 

(詳しくは『チェーンストアエイジ』誌2009年12月1日号で)