(ケース1) ある日、名古屋市郊外に住む初老の女性が行きつけの店舗を訪れると、看板が変わっていた。帰宅して、家人に一言。「いつものスーパーがヨーロッパの会社に買収されちゃった。敷居が高くって。もう行かないわ」。
(ケース2) 関東地区に住む老夫婦は、創業以来長年通った馴染みの店舗の名前が「“デスなんとかストア”に変わった」ことに気付いた。そのまま踵を返し、自宅そばのスーパーで買い物をすませた。
最近耳にした2つの話だ。
社名や店舗名を変更することで新しい顧客を獲得したという逆の例もたくさんあるだろう。また、オークワ(和歌山県)やカスミ(茨城県)のように特定の地域を深掘りするために複数の名前のフォーマットを活用しているような場合もあるので一概には何とも言えない。
しかし、上位2割の常連客の売上と利益が全社の8割を占めるという「パレートの法則」を鑑みれば、こんなことで優良顧客を失うことはあまりにも痛い。
第一、それまでのコーポレートブランドや店舗ブランドを確立するために、その企業は一体、いくらを投じてきたのだろう。企業にとって「ブランド」は、非常に大事なものであるはずなのに、長引く消費低迷の焦りからか、あまりにも拙速に「ブランド」を捨て過ぎるきらいがある。
「顧客の維持深耕と創造」をマーケティング活動とするならば、「ブランド」変更は必要条件でも、絶対条件でもない。
出版社としての観点に立てば、表紙とタイトルだけを変えても、所詮、退屈な本は退屈な本に過ぎない。中身を大きく書き直さない限り、秀書にはなりえないのである。
(余談)
10月18日のブログで松下政経塾について書きましたところ、翌19日の朝日新聞で似たような記事が出てびっくりしています。人間の発想は、大きく変わるものではないなと思う半面、更新日が朝日新聞よりも先でよかったと胸をなでおろしています。