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加藤和彦さんを悼む

 5月の忌野清志郎さんに続き、一昨日は加藤和彦(62)さんである。自殺だという。

 

 加藤和彦さんの仕事で広く知られているのは、『帰ってきたヨッパライ』『イムジン河』『悲しくてやりきれない』などのヒット曲で知られるザ・フォーク・クルセダーズ。『タイムマシンにおねがい』『サイクリングブギ』『どんたく』などのサディスティック・ミカ・バンドだろう。北山修さんとのデュエット『あの素晴らしい愛をもう一度』は教科書にも掲載されるほどの素晴らしい仕事。音楽プロデューサー、作曲家、ギタリストとしてもその名を轟かせていた。

 

 しかし、私が彼のファンになり、傾倒していったのは、当時の妻、故安井かずみさんとのコンビで書いた三部作『パパ・ヘミングウェイ』(1979)、『うたかたのオペラ』(1980)、『ベル・エキセントリック』(1981)がリリースされてからだ。

 

 なかでも、“世界一周の旅”をテーマにした『パパ・ヘミングウェイ』は私の中の最高傑作である。LP版は擦り切れるほど聴いたし、CDを購入した後は、デジタル音楽プレーヤーに録音して、いまでも年間10回以上は聴いている。

 

『パパ・ヘミングウェイ』の“世界一周の旅”は、鈍く光るパリの街中で出会いと別れを繰り返す場所、『Small Cafe』からスタートする。若く輝いていた頃に訪れた欧米での出来事を振り返る『Memories』、18世紀前半にパリで活躍した女優アドリエンヌ・ルクヴルールを歌ったと思われる『Adriana』――。

 

 そこから舞台は、バハマの『San Salvador』島やガイアナの『Georgetown』に。旅は、さらに「海に人生を教わり、風に歌をならう」という南の島の無垢な少女を描いた『Lazy Girl』へとつながっていく。

 

 そして、“世界一周の旅”のテーマ『Around the world』。

 

 再び、カリブ海に浮かぶオランダ領アンティル『The days of Antil』(インストルメンタル)に戻り、『Memories』(インストルメンタル)で37分間の濃厚な世界ツアーは終わる。

 

 当時、高校生の私は、海外旅行どころか、飛行機にさえにも乗ったことがなかった。けれども「加藤・安井夫妻」が描き出す「未知の世界」に自分の未来の姿を投影して、いつかこの小さな島国から雄飛するために、退屈な毎日に耐え続けていた。

 

 いまのところ、なぜ加藤さんが自らを死に至らしめたのかを知る由もない。

 

 ただ、私のなかの巨星がまたひとつ落ちた事実があるだけだ。合掌。