[26日 ロイター] – 新型コロナウイルスワクチン接種のデジタル証明書は、コロナ禍で打撃を受けた航空業界の救世主として政治家から歓呼で迎えられている。しかし当の航空企業幹部らは、既に発行された紙などの接種証明書を持った乗客への対応に時間がかかり、空港に長蛇の列ができる事態を心配して今なお眠れない夜を過ごしている。
アワー・ワールド・イン・データによると、世界で新型コロナワクチンの接種を完了した人々は現在2億2000万人を超え、少なくとも1回接種を受けた人は10億人近くに上る。
しかしその多くは、使い勝手の良いデジタル証明書が開発される前に接種を受けた人々だ。発行済みの証明書の件数は億単位に上るが、その位置付けが不透明になるという問題が浮上している。
国際航空運送協会(IATA)はロイターに対し、「各国政府はワクチン接種済みの旅行客に対する渡航制限を緩和し始めている。政府は紙の証明書の受け付けについて明確な指針を示すことが不可欠だ」との見解を書面で寄せた。
IATAと、世界の空港を代表する類似ロビー団体は既に、ワクチン接種歴について共通基準を設ける世界保健機関(WHO)の取り組みを支持している。新たな証明書はQRコード付きで、出入国審査の際に簡単にスキャンできるものとなる見通しだ。
WHOによると、ワクチン接種証明アプリ、もしくは新たな紙の接種証明書の最初のサンプルは、6月終盤に公表される見通し。
また欧州連合(EU)は夏までに「デジタル・グリーン・パス」と呼ばれる独自の証明書を導入したい意向だ。
しかし、航空業界は今後数週間中に売上高を回復させたいと躍起になっており、これでは間に合わない。
ある航空業界筋は、紙の証明書が新基準に沿っているかどうかを点検する作業は「多大な労力」を要するだろうと警戒感を示した。
基準統一が肝心
ワクチン接種証明の審査円滑化の経済的意義は、コロナ禍の中で2度目の北半球の夏を迎える航空・ホテル業界にとってこの上なく大きい。
最近配信された航空産業についてのポッドキャストでは、アナリストから「ワクチン接種が進めば航空需要は後からついてくる」との声が出た一方で、旅行の出発国と到着国が接種証明書の基準を統一できなければ、いくら接種が進んでも効果はないとの指摘もあった。
イスラエルやアイスランドは既に渡航受け入れを再開しているが、これらの国々に渡航するにはワクチン接種証明書が必須。オーストラリアのカンタス航空も利用客に接種を義務付ける見通しだ。
闇市場で偽の接種証明書が売られている問題も、状況を複雑にしている。
英国では最近、ロンドンのヒースロー空港で乗客が新型コロナ感染のチェックのために最長6時間も行列に並ばされる映像が流れ、旅行が回復した際の混乱ぶりが思いやられた。
今のところ、WHOが策定中の新基準に初期の接種証明書が組み込まれるかどうかについて、明確な発言は聞かれない。
WHOによると、デジタル、紙を問わず既存の接種証明書に新基準を適用するかどうかは、加盟194カ国の政府の判断に任される。
WHOはロイターに対し、「紙であれデジタルであれ、接種証明書を実際に利用可能なものとするには(以前の接種歴を)含み、反映させる必要がある」とし、「インドなど一部の国々は、既に1億件以上のワクチン接種証明書を発行済みであることを念頭に置くべきだ」と指摘した。