アングル:沈黙の五輪スポンサー、中止観測広がり苦しい立場に

ロイター
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都内に設置された五輪のロゴ
1月29日、中止や延期の不安にさいなまれながら、東京五輪・パラリンピックのスポンサー企業は半年後に迫る開会式をじっと待っている。写真は都内に設置された五輪のロゴ。22日撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 29日 ロイター] – 中止や延期の不安にさいなまれながら、東京五輪・パラリンピックのスポンサー企業は半年後に迫る開会式をじっと待っている。五輪を全面に打ち出した宣伝活動は再開できず、スタートまで2カ月を切った聖火リレーは、感染対策を講じた新たな形式を主催者側からまだ伝えられておらず、当初計画のまま準備せざるを得ずにいる。

国家的プロジェクトを支える使命感を背負う一方で、今夏の開催に反対する世論は高まり、スポンサー企業は苦しい立場に置かれている。

割り当てが決まらない接待用チケット

「口が裂けても中止、延期という言葉は出せない雰囲気だった」──。スポンサー企業の関係者は、先ごろ開いた東京五輪の組織委員会との打ち合わせの様子をこう説明する。

東京五輪の国内スポンサー企業は68社、昨年7月の開催に向けて契約額は過去最高の約3300億円に上った。それが1年延期されたことに伴い、自社製品の提供を含めて総額220億円相当の追加拠出を求められ、昨年12月に全社が契約を更新。総額は3500億円を超えた。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に続く中、今年7月の開催に再び不透明感が強まっている。本来予定していた昨年7月の延期が決まって以降、五輪開催に向けた国内の機運は後退しつつあった。今年に入ると緊急事態宣言が再び発令され、国内メディアの世論調査によると、8割が大会の延期あるいは中止を求めている。

国際オリンピック委員会(IOC)や日本政府、東京都など主催関係機関は予定通り7月の開催を強調するものの、五輪に携わるスポンサー企業の関係者の間では不安が広がっている。ゴールドパートナ―のキヤノンの田中稔三最高財務責任者(CFO)は28日の決算会見で、開催されれば従来の五輪と同様、販促活動に活用するための計画を組んでいると説明。一方で、「万が一、もしうまく開催できないことも含め、その対応はいま会社で考えている」と語った。

東京五輪の組織委員会はロイターの取材に対し、日本政府や東京都、各自治体の感染対策により、状況は改善していくと期待していると電子メールで回答。「早く通常の生活に戻ることを期待している。今夏の安全で安心な大会の開催に向け、関係機関と緊密に協力を続ける」とした。スポンサー企業の宣伝活動が変化しつつあるという関係者の証言については、「すべての関係者から全面的な支援を受けている」と答えた。

宣伝自粛の影に消費者の目

ロイターはこのほど、スポンサーを含めた五輪関係者24人に取材。少なくとも11人は、緊急事態宣言が延長された場合に、世論がさらに後ろ向きになる恐れがあると懸念を示した。

「われわれが中止や遅延という言葉を口にすることすらはばかられる」と、前出の関係者は言う。「(組織委に)中止や延期になった場合、われわれの拠出金はどうなるのか、と尋ねることすらできなかった」と、組織委との会合の空気を振り返る。

協賛したスポンサー企業は本来、大会のロゴやキャラクターなどを使って広告・宣伝活動を大々的に展開することができる。複数の関係者によると、昨年末の時点まで、スポンサー企業はいったん延期になった開催機運を盛り上げようと宣伝活動の再開を検討していたという。

だが、年明けに2回目の緊急事態宣言が出た後は「トーンダウンした」と、関係者の1人は話す。ロイターが取材したスポンサー企業のうち、6社は五輪を活用した宣伝活動を自粛あるいは延期していると答えた。コロナ禍で開催に慎重な世論が広がる中で、開催をイメージした前向きなテレビCMを流せば、消費者から「不謹慎」と指摘されかねないためだ。

アサヒグループホールディングスの関係者によると、同社は昨夏の大会延期後、開催に向けた詳細が明確になるのを待つため、予定していた広告・宣伝の一部計画を先延ばしした。ゴールドパートナ―であることを伝える映像は、今もテレビCMで使っている。同社広報はロイターに対し、大会の先延ばしが決まって以降、一部広告を延期したことを認めた。

競技のチケットを確保し、顧客を招待・接待できることもスポンサー企業になる利点だが、中止あるいは無観客開催になればそのメリットも失われる。「観客を入れるのか入れないのかなど、全然決まっていない。それが決まらないとチケットの販売、スポンサーに対する割り当てについても決まらないから、企業側は怒ってると思う」と、大会関係者の1人は言う。

聖火リレー、淡々と準備

企業は3月25日に始まる聖火リレーの行方にも気をもんでいる。10年前に発生した東日本大震災からの「復興」を世界にアピールする東京五輪の聖火リレーは、福島県を出発し、121日間かけて全国を回る。聖火リレーの協賛企業は大会そのもののスポンサーとは別で、沿道で自社のサンプル品を配布したり、運営に必要な機材を提供したりするなど運営に協力する。

しかし、コロナの拡大に歯止めがかからない中で、感染対策は必須。当初計画通りのコースを走るのか、沿道の観衆はどうするのか、新たな実施形態について、まだ詳細を聞かされていないという。「昨年開催するはずだった計画を前提にして淡々と準備を進めている」と、協賛企業の関係者は言う。

閑散とした沿道をランナーが1人で走る可能性もあることから、その映像をそのまま流しても「絵にならない」と懸念する関係者もいる。「どういう形で聖火リレーを報道してもらうか考えなくては、という話が出ている」と、同関係者は話す。

準備を進める組織委はロイターの問い合わせに対し、「聖火リレーの感染対策は検討中」と回答。予定通り3月25日に実施するとした。

2020年の夏季大会が東京に決まってから8年。長野県で開いた冬季大会以来となる日本での五輪開催に向け、スポンサー企業も国が威信をかけたプロジェクトの準備を支えてきた。コロナの感染拡大で1年延期が決まった後も、異動せずに五輪担当を続けている社員は多い。

「まさかもう1年いるとは思わなかった」と話す関係者の1人は、自らをベトナム戦争を戦った米兵に例える。「日本のためだと思って一生懸命毎日仕事をしているが、国民からは、お前ら間違っていると言われているように感じる」

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