焦点:次の経済対策、残る需給ギャップに対応

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東京都内のオフィスビル街の夜景
7─9月期国内総生産(GDP)は前期比年率21.4%のプラス成長となったが、新型コロナウイルスの感染が広がる前と比較して落ち込んだ需要の半分程度を取り戻したに過ぎない。写真は東京都内のオフィスビル街の夜景。2020年6月2日に撮影。(2020年 
ロイター/Issei Kato)

[東京 16日 ロイター] – 7─9月期国内総生産(GDP)は前期比年率21.4%のプラス成長となったが、新型コロナウイルスの感染が広がる前と比較して落ち込んだ需要の半分程度を取り戻したに過ぎない。政府はまだ「相当程度」の需給ギャップが残っていると分析。これまでの経済対策で35兆円分を穴埋めできるとの試算もあるが、来年度はこの剝落分が財政の崖となるため、今後最低でも15兆円を超す経済対策が必要になると専門家は分析している。

35兆円の財政の崖、民需だけでは不足との試算

9日に開催された政府の経済財政諮問会議では、民間議員から「まだ足もとでGDPギャップが相当程度存在している」との主張が展開され、コロナ禍で失われた需要不足を早期に取り戻し、日本経済の競争力を強化するための議論が活発に行われた。

西村康稔経済再担当相も7─9月期GDP発表後の会見で、コロナ禍で失われたGDPのうち半分程度しか取り戻せていないとして、30兆円超のGDPギャップがある印象との認識を示した。

経済財政会議に提出された参考資料によると、今年度は1次・2次補正予算など大規模な財政支出により、35兆円分のGDP押し上げ・下支え効果があったとのイメージが提示された。

しかしこの35兆円分の効果は来年度にかけて剝落し、「財政の崖」が発生することになる。21年度は、人の移動と外需の回復等による民需回復分は想定されるものの、それに加えて公需による経済下支えや民需喚起があって初めて経済の好循環が再生できるとの議論が展開された。

提示された資料では、民需の回復と経済対策のうち21年度に効果が出てくるものを合わせて21兆円分は取り戻せることが想定されていることがわかる。みずほ証券チーフエコノミスト・小林俊介氏は「それでも不足する14─15兆円程度の目線が補正予算の財政支出の目安となる」と分析する。

会議では民間議員の「十分な対策効果を発揮できるだけの規模感を持った財政運営を実行すべき」(柳川範之・東京大学大学院経済学研究科教授)との提言に対し、菅義偉首相も「時機を逸することなく、あらゆる手段を総動員して、早期に日本経済を成長軌道に戻していくための対策をしっかりと考えていきたい」と応じて、需給ギャップを埋めるための経済対策を指示した。

15兆円でも不足との見方

ただ市場関係者からは15兆円程度の経済対策では不足感は否めないとの声も上がる。モルガン・スタンレーMUFG証券のチーフ日本エコノミスト、山口毅氏は、感染再拡大で経済に不確実性が高くなっていること、デフレ的傾向にある物価は遅行指標であり、早期に経済を回復させる必要があることからみて、必要額以上の経済対策が望まれると指摘する。

特にこの先、感染再拡大を考慮すれば、経済回復ペースは鈍化するとの見方が大勢となりつつある。ニッセイ基礎研の経済調査部長・斎藤太郎氏は10─12月期GDPは民間消費、輸出の伸びが鈍化することから大きく減速する可能性が高いとみている。

内閣府幹部も、直近でGDPのピークだった昨年7─9月期の水準に回復するのは22年1―3月期頃と、あと2年程度はかかるとみている。

感染再拡大で公需依存度高まる可能性

このままでは経済回復への道のりはさらに長くなるとの危機感も浮上する中、菅首相は、経済対策の柱として、コロナ対策、デジタル基盤強化などの経済構造の転換、防災・減災などの3つを挙げた。

これに沿った対策の検討が進む中で、感染の再拡大が明らかとなった足もとでなお示されているのがGoTo事業への期待感だ。加藤勝信官房長官も山口那津男公明党代表も「GoToトラベル事業での感染者は多くない」と強調。3次補正で事業継続の取り扱いを検討することも明らかにされている。さらに「国土強靭化など公共事業は効果も比較的大きく防災効果も大きい」(与党関係者)との見方も目立つ。

7─9月期にGDPの戻り具合がまだ半分程度にとどまっていることが判明し、この先も成長拡大が望みがたい状況であることを踏まえれば、来年度の財政の崖を埋める民間需要も期待ほど伸びない可能性がある。対策の中身や規模感は与党内でもまだ統一されていないように見えるが、結果的に公的需要での穴埋め額が広がる可能性もありそうだ。

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