[東京/シカゴ/ストックホルム 9日 ロイター」 – ミケランジェロ対ダビンチ、モハメド・アリ対ジョー・フレイザー、バットマン対スーパーマン……。「夢の対決」はいろいろあるが、今週その系譜に名を連ねるのはソニー対マイクロソフト、大ヒットした両社のゲーム機次世代モデルによる真っ向勝負である。
米マイクロソフトの「Xbox」Series X・Series Sに戦いを挑むソニーの「プレイステーション5(PS5)」は、市場規模1500億ドル(約15兆7600億円)のビデオゲーム産業を活気づかせたパンデミック下での消費ブームの波に乗る絶好のポジションにいると広く見なされている。
PSは対応するゲームの種類も豊富で、ファン層も広い。「PS4」は1億台以上を販売し、1つ前の世代のバトルを勝ち抜いた。業界の専門家によれば、ライバルであるマイクロソフトに対しても優位を維持するはずだ。
ウェドブッシュ・セキュリティーズでアナリストを務めるマイケル・パクター氏は、「Xboxを所有している人は新しいXboxを買い、PSを所有している人は新しいPSを買う傾向がある」と話す。
だが、この業界は変化を続けており、場所を取るハードウェアなしにゲームをストリーミングするクラウドゲームが台頭している。アナリストらによれば、これによってゲーム機の販売が減少し、マイクロソフトに有利な変化になる可能性があるという。
両社が7年ぶりに発売する新機種を待ち望む声は強い。主要市場では、新「Xbox」の発売は10日、PS5はその2日後とされており、価格は約300―500ドルである。
実際には何週間も前に事前予約の競争が始まっていた。といっても、勝負は一瞬で決着してしまう。たとえばソニーのPS5の場合、多くの小売サイトでは事前予約枠は数分で売り切れ、ファンを嘆かせた。
ジュリアン・マーカドさん(17歳)は、9月16日に事前予約が開始された数分後、ウォルマート・ドットコムで何とかPS5を予約した。多くのゲーマーらとの競争になることは分かっていた。
「ブラック・フライデーのショッピングとまったく同じだ」とダラスで高校に通うマーカドさんは言う。彼は5歳のときから父親と一緒にビデオゲームを楽しんできた。「早起きは三文の得と言うけど、その逆はない」
パンデミックがもたらしたゲーム熱
優位が見込まれるとはいえ、ソニーにとって、この勝敗が意味するものは大きい。ゲーム関連事業はソニーにとって最も利益率の高い大黒柱だ。2019年度、ハードウェア、ソフトウェア、サービスを含めた同事業部は、グループ全体の売上高約770億ドルの4分の1に迫り、営業利益79億ドルの30%近くを占めた。
マイクロソフトにとって、ゲーム関連事業が会社全体に占める比率はソニーの場合ほど大きくない。とはいえ、その業績は無視できない。同社もハードウェア単体の売上高を開示してはいないが、現行機種である「Xbox One」は5000万台を販売したとアナリストらは推測している。
もう1つのゲーム機ハード大手である日本の任天堂にとっても、ゲーム機へのこだわりが功を奏し、先週発表された業績予測は、「ニンテンドースイッチ」の需要が増加したことを受けて改善された。
PS5の小売価格は499.99ドル、ディスクドライブ非搭載モデルの「デジタル・エディション」では399.99ドルとなっている。XboxのSeries Xは499.99ドル、下位機種のSeries Sは299.99ドルで販売される。
メディア調査会社アンペアによれば、今年のPS5の予想販売台数は500万台、新Xboxは390万台と見込まれている。合計では、前世代を上回るものと予想される。
「パンデミックが米国のホリデー商戦を一変させることが予想される」と語るのは、ルーズベルト・インベストメント・グループの上級ポートフォリオ・マネジャーを務めるジェイソン・ベノウィッツ氏。「人によっては、家のなかで遊ぶことが安全な交際の手段になる」
プレイステーション用ゲームの豊富なラインナップは、「スパイダーマン マイルズ・モラレス」などPS独占タイトルに携わったグループ内開発会社に支えられている。ゲーム専門家によれば、対照的に新Xboxは、発売当初はキラーコンテンツとなるタイトルを欠いている。主力となる「Halo」(ヘイロー)シリーズの発売が、パンデミックによる開発の遅れで来年に延期されてしまったからだ。
とはいえ、今後数年のうちに、クラウドゲームの成長が米ソフトウェア業界の巨星であるマイクロソフトに優位をもたらすかもしれない。両社ともクラウドサービスの提供に取り組んでいるものの、マイクロソフトの方が積極的である。
Xboxの会員サービス「ゲームパス」は急速に成長している。このサービスでは最新作も含め100タイトル以上のゲームを提供しており、会員数は1500万人を超える。ソニーは、最も人気のあるタイトルを「プレイステーション・ナウ」などのサービスで提供することに消極的である。それによって、大きな開発予算を投じたゲームの売上が「共食い」状態に陥ることを恐れているからだ。
「供給を上回る需要」
ゲーム産業の専門家によれば、パンデミックはゲーム機に対する需要をある程度押し上げたものの、ソニー、マイクロソフトとも製造面では足かせになっており、供給不足は2021年まで続くと見られる。
アンペアでゲーム産業調査担当ディレクターを務めるピアス・ハーディングロールズ氏は、「需要が供給を上回っている。欲しいゲーム機を入手できない人が出てくるだろう」と語る。
ソニーの発表によれば、ウォルマートやベストバイ、ターゲットなどの小売企業では、11月12日の発売日にはオンラインストアのみでPS5を販売するという。パンデミック下、店舗外で人々が開店待ちの行列を作ることを防ぐためだ。
ウェドブッシュによれば、ウォルマートでは1月末までに最大11億ドル相当の新世代ゲーム機を販売する体制だという。同社はゲームストップとともに米国のゲーム機市場を支配する存在であり、それぞれ約30%のシェアを占めている。
ターゲットは、メーカー側との緊密な協力により十分な在庫を確保すると話している。ゲーム機を予約した何人かの購入者は、ロイターの取材に対し、商品の到着が発売日から数日後になるかもしれないと言われている、と話した。
ウォルマートは発売と同時に新型ゲーム機の販売を始めると述べているが、需要に対応するだけの在庫があるかどうかはコメントを控えている。またベストバイも需要を満たせるかどうかには触れていない。ゲームストップにもコメントを求めたが回答は得られなかった。
カジノで接客係を務めるデアンソニー・シックリンさんは9月にターゲット・ドットコムでPS5を予約した。彼にとって何より大切なのは、まさに発売日当日にゲーム機を手に取ることだ。
25歳のシックリンさんから、[事前予約を勝ち取るための]アドバイスをもらった。
「カード情報を全部用意しておいて、あとはクリックすればいいだけにしておくことだ」と彼は言う。「グズグズしていたら負ける。スピードが命だ」