焦点:マイクロソフトの賭け、TikTok買収は「もろ刃の剣」

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米マイクロソフトが動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業を取得すれば、さまざまなリスクを背負い込みかねない。写真はマイクロソフトのロゴ。バルセロナで2019年2月撮影(2020年 ロイター/Sergio Perez)

[オークランド(米カリフォルニア州) 3日 ロイター] – 米マイクロソフトが動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業を取得すれば、さまざまなリスクを背負い込みかねない。つまり大手IT企業に対する監視の目が厳しくなっているさなかに、政治的な危険が大きいソーシャルメディア事業に足を踏み入れるだけでなく、米中対立の渦にも巻き込まれてしまう。

半面、マイクロソフトにとって、傘下のビジネス向け求職交流サイト「リンクトイン」にティックトックを加えれば、今はフェイスブックやグーグルが支配するネット広告市場でより有力なプレーヤーになれる面もある。

マイクロソフトは2日、ティックトックの米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの事業を対象に、9月15日までの完了を目指して買収協議を続けていく方針を表明した。ティックトックを運営する中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)が、米政府から安全保障上のリスクを理由にティックトック売却を迫られているだけに、マイクロソフトは買収価格を巡る交渉で優位に立てそうだ。

ティックトックはあっという間に世界中の若者を取り込み、フェイスブックやグーグル傘下のユーチューブの強敵として登場した。もっともライバルたちと同じく、ティックトックも、偽情報の拡散や政治的偏見に満ちた投稿を取り締まるためのコンテンツ監視に多額のコストを負担することが求められている。

リフィニティブのデータからは、フェイスブックとグーグル親会社のアルファベットの総利益率が過去3年間に10%ポイントも下がった原因のほとんどが、コンテンツ監視強化のコストだったことが分かる。

教育メディア企業コンプレクスリーの最高経営責任者(CEO)で人気ユーチューバーとして知られるハンク・グリーン氏は「果たしてマイクロソフトが、ティーンの間にさまざまな陰謀論を広めるアプリを本当に保有したいのだろうか」と述べた上で、ティックトックが「特定の空気」を維持するためコンテンツを削除している慣行を指摘。こうした同社の判断に対しては、マイクロソフトのようにずっと有名な企業の一員になれば、世間の風当たりがもっとたびたび強まる可能性があるとの見方を示した。

今のところ、マイクロソフトは時価総額でアップルに次ぐ世界2位の巨大企業ながらも、近年は独占禁止法やデータ保護、中国事業といった問題で他の大手ITほどは批判にさらされていない。

賭けの要素

マイクロソフトは、サティア・ナデラ氏がCEOに就任した2014年以降、幾つかの大型買収を手掛けてきた。その中には人気ゲーム「マインクラフト」の開発元や、リンクトインが含まれる。前任のスティーブ・バルマー氏が主導した、ノキアの携帯電話事業買収などの案件が不首尾に終わったのと比べると、いずれもそれなりの成果を収めている。

例えば株価に50%のプレミアムを乗せた16年のリンクトイン買収は、ナデラ氏にとってそれまでで最大かつ最もリスクの高い取引だった。発表当時、アナリストは売上高の伸び悩みや何らかの利用規制が導入される恐れを挙げたため、マイクロソフト株は3%下落した。

もっともそうした懸念の一部は過剰だったのかもしれない。マイクロソフトは、メールソフト「アウトルック」などの自社製品とリンクトインの接続を慎重な形で進め、独占禁止法やプライバシー保護の面で当局に目を付けられる事態を巧みに回避してきた。そしてアナリストの間では、シナジー(相乗)効果の点でこの買収は成功したとの見方が大勢になっている。

リンクトインの広告収入は、足元でこそ新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)で鈍化したとはいえ、17─19年においてはマイクロソフトの各部門で最も急速に拡大した。アナリストの試算によると、リンクトインはなお赤字基調だが、広告と定額契約を通じてマイクロソフトに143億ドル(約1兆5000億円)の収入をもたらした。

ただティックトックは、もっと賭けの要素が大きい。なぜなら利用者はリンクトインほど高所得層ではなく、広告主として懐の豊かな消費者を取り込むためにより多くの支出をする流れにならないからだ。ティックトックの広告販売チームや技術はリンクトインに比べて熟練度が低く、ティックトックの方が市場での競争も激しい。

ボーハウス・アドバイザーズが先月実施した調査に基づくと、米国では少なくとも1週間に1回ティックトックを利用する大人は全体の11%で、ユーチューブの49%、フェイスブックの62%を下回っている。

またセンサー・タワーのデータによると、リンクトインがマイクロソフトに買収された時点で創業から13年が経過し、従業員1万1000人と世界中の月間ユーザー1億0500万人を抱えていた。これに対してティックトックは今、創業6年目で、米国の従業員は約1000人だが、マイクロソフトが買収対象にした4カ国におけるダウンロード件数は2億2600万件という。

ボーハウス・アドバイザーズを率いるマイク・ボーハウス氏は、リンクトインがセクターにおける支配的な地位と好調な収入、利益率を支えに成長してきた一方、ティックトックは信じられないほどのユーザー数の拡大と、モバイル広告収入を得られるチャンスとが、評価の土台になるとの見方を示した。

さらにティックトックを傘下に置けば、マイクロソフトは「イケてる」職場で働きたいと希望している若手エンジニアにとっては有力な就職先候補に浮上するほか、フェイスブックやグーグルとは別の場所を求めている広告主の受け皿になることができるだろう。

(Paresh Dave記者)

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