[東京 30日 ロイター] – コロナ感染症の打撃で急激な落ち込みを見せた景気だが、谷底から戻る力は極めて弱そうだ。感染収束のメドが立たない中での経済活動は一定の制約下におかれ、本来の力を発揮できない。特に雇用・所得環境は一層悪化する予兆もあり、政府内では年末時点でもGDPはコロナ前より5%程度縮小し、元の成長軌道に戻るのは21年末ごろとの見方が浮上している。
雇用悪化と所得減、一段の悪化も
「今後の景気のけん引役は、何もない」──政府高官の1人は、今月の月例経済報告で「下げ止まりつつある」とした景気の先行きについて「持ち直しに向かうことが期待される」としたものの、需要が徐々に戻るだけで、引っ張り上げる力のある主体はどこにも見当たらないと指摘する。
特に、景気に最後まで影響を及ぼすとされる雇用・所得統計は注意して読む必要がある。
今日発表された5月の労働力調査によると、失業者が約198万人、休業者が約423万人、合わせて「仕事をしていない」人たちが621万人にのぼる。4月の786万人からやや減少したとはいえ、前年同月の310万人の倍と、高止まりは明らかだ。
労働市場からの退出も引き続き目立つ。就業者は4月に前年比68万人減少、5月も44万人減少した。5月は女性よりも男性の減少幅が大きくなった。
政府の対策で雇用調整助成金や給付金などが支給されるとはいえ、労働基準法上の支払い義務は賃金の6割にとどまり、収入は減少せざるを得ない。
先の政府高官は400万人を超える「休業者」のうち「年末ごろまでに職場に戻れるのは8割程度」と予想する。
雇用の不安や所得の減少がここまで高まっている中で、消費の行く末が心もとないことは言うまでもない。
リモート化で生産性は低下
コロナ感染は世界的にみていまだ収束の兆しも見えない中で、世界経済に依存する企業部門の回復も極めて厳しそうだ。5月の鉱工業生産は市場の予想を大幅に下回った。指数の水準は「直近のピーク時(17年4月)に比べると4割の水準にまで落ち込んだ」(ニッセイ基礎研・斎藤太郎・経済調査部長)ことが、谷を深さを物語る。「6月以降、最悪期は脱するものの、フル稼働にはほど遠い状況が継続するだろう」(同氏)との見通しだ。
世界的な需要の減少がこうした企業部門の活動を制約してきたことは想像に難くないが、経済社会の生産性もコロナの影響により低下している可能性があり、経済の質の改善は一筋縄ではいきそうもない。
内閣府の「選択する未来」委員会が、就労者や学生、子育て世帯などを対象に行ったコロナの影響に関する調査では、労働生産性が低下したとの回答47%に対し、上昇したとの回答はわずか9.7%だった。
7月に発表される今年の「骨太方針」ではデジタルニューディールと名付けた新しい行動様式を実現するため、デジタル化による生産性向上を掲げるが、それが浸透し、実際の生産性向上に結び付くのはそう容易ではなさそうだ。
対策押し上げ効果も、GDP縮小免れず
内閣府が発表した2次補正予算までの対策のGDP押し上げ効果は6.4%。ただこの効果を含めても、「今年の年末の名目GDPの規模は前年と比較して5%程度縮小した水準」というのが、経済官庁による現時点での見立てだ。およそ27兆円程度の縮小に該当する。
もっとも21年度に入れば、少なくとも国内ではコ ロナ感染の影響が相当程度緩和されるとみられ、延期された東京五輪が予定通り開催されれば、その効果も加わる。伊藤忠総研の武田氏は「潜在成長率(実力ベースの成長率)を大きく上回るプラス4.2%の成長となる」と見通す。政府高官も「元の成長軌道に回帰できるのは21年の年末ごろ」というのが今のメインシナリオだとしている。
ただ政治サイドでは、早くも次なる需要対策は必要との方針が打ち出されている。これまでの補正予算はセーフティネットとしての対応が大部分を占め、景気悪化への需要対策は「まだ何も打ち出されていない」(複数の政府関係者)ためだ。自民党の甘利明税調会長はロイターとのインタビューで「秋に本格的な経済対策を打ち出す」と明言している。