アングル:ソニーが半導体で「サブスク」、試される複合企業の実力

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6月29日、ソニー<が稼ぎ頭の一つである半導体事業で多角化を進めている。写真は都内で2017年11月撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 29日 ロイター] – ソニーが稼ぎ頭の一つである半導体事業で多角化を進めている。イメージセンサーはスマートフォン向けに偏っていたが、人工知能(AI)を搭載したセンサーを開発し産業や小売業へと販路を広げ、将来的にはサブスクリプションサービスの提供も見据える。必要な人材は社内横断的に集まってきており、ハードからエンタメコンテンツまでを擁する複合企業に対する金融市場からのネガティブなイメージを打ち返せるかも試されそうだ。

「イメージセンサー事業を長期的にどうすればより競争力を維持できるか、3年ほど議論を重ねた」と、半導体子会社のシステムソリューション事業部の染宮秀樹事業部長は語る。解決策の一つが、センサーというハードの「モノ売り」にソリューションという「コト売り」をアドオンすることだった。

ソニーは昨年6月、半導体でのコト売りに向けシステムソリューション事業部を立ち上げ、今年4月にはAIを搭載したイメージセンサー「IMX500」のサンプル出荷を始めた。

AIセンサーでは、情報ネットワークの末端(エッジ)に位置するセンサーが捉えた画像を解析し、必要な情報を抽出した上でクラウドサーバーに転送する。データ量が格段に小さくなり、画像データをそのままクラウドサーバーに転送して解析するのに比べ通信に伴う遅延やサーバーの負荷が軽減される。

画像データをより価値のある情報に加工するニーズには「ハードの市場より拡大余地がある」と染宮氏は語る。ソニーは関連技術を獲得するために買収も積極的に行っており、昨年買収したスイスのミドクラは、AIセンサーの開発に大きく貢献しているという。

用途の多様化と収入の安定化

ソニーのイメージセンサーは、シェアでは2位の韓国サムスン電子に倍近く差をつけるなど他を圧倒しており、同社にとって稼ぎ頭の一つでもある。ただ、スマホ向けが約9割を占め、用途の偏りが大きい。米中摩擦で主要顧客の中国の携帯端末大手のファーウェイの経営が揺さぶられるなど、市場の先行き不透明感も増している。AIセンサーは製造業や小売業向けを想定し、利用が広がれば用途の多様化に寄与し得る。

その先には、半導体ソリューションのサブスクも見据える。サブスクでは、顧客と継続的につながることができ、安定収入も期待される。すでにゲーム事業ではサブスクを提供し着実に利用者が増加、音楽事業では米アップルやスポティファイのサブスクを通じて配信される楽曲の著作権収入を得ている。

もっとも現時点では、ソニーの半導体でのサブスクが事業の柱に育つかは読みにくい。エース経済研究所の安田秀樹シニアアナリストは、ソニーの取り組みは業界の流れに沿うとみる一方、「製造業や小売業の現場にどれほどのニーズがあるかは、やってみないとわからない」と話す。金融市場の関心は当面、引き続きスマホ向けセンサーの動向に向かいやすいという。

複合企業のデメリット打ち返せるか

ソニーは来年、社名を「ソニーグループ」に変更し本社機能を明確化する。金融子会社のソニーフィナンシャルホールディングスを完全子会社化する方針も打ち出した。吉田憲一郎社長兼最高経営責任者(CEO)は5月の会見で、事業ポートフォリオは多岐にわたるとし「多様性は経営の安定性にもつながっている。これをさらなる強みとするためグループ経営の強化を継続する」と述べた。

ソニーに対しては、ダニエル・ローブ氏が率いるヘッジファンドのサード・ポイントが「メディアと半導体部門の独立は可能で、一体化しているよりも多くの価値を創出できると考えている」と指摘するなど、複合企業の側面に否定的な見方もある。

ただ、足元のように不確実性が高まっている状況下では、一時的に儲かるビジネスが次の局面でどうなるか読みにくく、「一つの技術が多用途に応用できる方がいい」と早稲田大学大学院経営管理研究科の長内厚教授は指摘している。

ソニーの半導体事業では、製品に組み込むソフトの技術者が多くクラウドやネットワークに精通する人材が少なかったが「幸い、グループ全体を見渡すと様々なソフトウェアエンジニアがいる。志願して我々の事業部にくるエンジニアも、かなり増えてきている」(染宮氏)という。新たな取り組みは、複合企業で課題とされる横断的なリソース活用の成否を試す機会にもなるかもしれない。

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