「結局, 我々は, より少ないものから多くのものを生み出すことを学ばなければならず, これまでどおりに事業を続けるという選択肢はないのである」本書第3章にある、著者マーヴィン・キング博士の言葉だ。
南アフリカ共和国の最高裁判所の前裁判官(現・上級顧問)、国際統合報告評議会の名誉議長で、国連ガバナンス監視委員会の議長も歴任するなど、コーポレート・シチズンシップ(企業市民活動)およびコーポレート・ガバナンス(企業統治)の権威であるキング博士。同氏は「株主が企業を所有している」という概念は虚構であり、企業は本質的には「オーナーレス」であると主張する。地球温暖化、貧富の格差拡大、種の絶滅の危機など世界が重大な転換点を迎えるなか、従来のような株主満足を重視する経営を志向するのは、「もはや適切な行為ではない」というのだ。
近年は、「SDGs」「ESG」が企業経営におけるキーワードとなっている。同氏は本書の中で、「21世紀においては、多くの社会問題および環境問題は, 事実上, 財務的な問題であり, これまで言われてきたような非財務的な問題ではないことを認めざるをえない」と述べ、SDGs・ESGを推進していくうえでは、取締役、そのなかでもとくに会計や財務の管理者の思考転換が必要であると指摘する。
こうした前提のもと、今後の企業経営においては「統合的思考」「統合報告」、そして「CVO」が企業価値向上のカギを握るとし、キング博士の分析・提言を解説していくのが本書である。
世間の関心の高まりを受け、最近は「SDGs」と題した書籍が多く刊行されている。ただ、「なぜ、SDGs・ESGを推進していかなければならないのか」という多くの企業が直面する命題に対して、ここまで具体的なアプローチを提示している書籍はほとんどないのではないだろうか。
本書の巻末でキング博士は「チーフ・バリュー・オフィサーのコンセプトを導入することで,( 中略)会計の専門家に『地球を救う』手段を提供する」と述べている。世界的なうねりとなりつつあるSDGsを推進していくカギは、各社の会計部門にあるのかもしれない。
『SDGs・ESGを導くCVO 次世代CFOの要件』マーヴィン・キング=著/ジル・アトキンス=協力/KPMGジャパン 統合報告センター・オブ・エクセレンス=訳・編著(東洋経済新報社刊/3400円〈本体価格〉)