鳥の格好をした男がピースサインするイラストで有名な飲食店と言えば、そう「世界の山ちゃん」だ。名古屋発のローカルチェーンとの認識はもう古く、今や関東、関西、さらに海外にまで店舗網を広げている。競争の激しい業界で躍進を続けられるのはなぜか。理由をちょっとでも解明できたらと、今回は本店へ足を運んだという話である。

創業1981年、今や国内外に82店舗を展開
「世界の山ちゃん」というチェーン店を認識したのはいつの頃からだろうか。記憶を遡っても明確には思い起こせないが、手羽先をウリにする店というのは割と早い段階からだったような気がする。
店を連想させるのに、重要な役割を果たしているのが看板に描かれているイラスト。鳥の格好をした男が左手でピースサイン、右手には「幻の手羽先」と書かれたノボリを持っている。お世辞にも上手とは言えない、いわば“ヘタウマ”な感じが、かえって強烈な印象を与えている。
実のところ、私はこれまで山ちゃんを利用したことがなかった。しかし今回、行ってみたいと考えたきっかけのひとつは、例のイラストがいつも頭の片隅にあったからだ。そう考えると、あの“鳥男”は店を広めるのにものすごく活躍していると想像できる。
あらためて山ちゃんの歩みに目を向けると、創業は1981年。名古屋近くにわずか約4坪、13席の「串かつ・やきとり やまちゃん」を出したのが始まりだ。創業者は故山本重雄氏で、イラストのモデルとなっている人物である。
当初、地元の名古屋を中心に店数を徐々に増やしたが、その後、他府県にも進出。2025年2月現在、中部、西日本、関東、北海道、九州、さらに海外まで、合計82店舗を展開している。
現在、会社の采配を振るのは、創業者の妻、山本久美社長。2016年、社長急逝に伴い、主婦からいきなり経営トップに就任した。このバトンタッチは、当時、かなり話題になった。
このようにストーリーがあるのが興味深い。では本店へ向かうことにする。最寄りは名古屋市営地下鉄の「栄」駅。13番出入口から現地をめざし歩き出す。周辺は名古屋を代表する繁華街が広がり、夜になるとかなり賑やかになるエリアだ。
久屋大通を南、最初の角を東へ、やや勾配のある道をまっすぐ進むと右手に本店が近づいてくる。見上げると「世界の山ちゃん 本店」の看板がかかっている。営業を開始する午後4時より10分前に着いたが、すでに待っている人が数名いる。さすが本店である。
私は高鳴る胸を抑えつつ、開店を待った。
午後4時から客が並ぶ本店で「幻の手羽先」を実食
午後4時──。従業員が店外に出てきて提灯を吊るした後、お客を店内に誘導した。道の反対側から遠目に見ていた私も店へ入った。
案内されたのはカウンター席。すぐにメニューを開き、何を頼むかを検討した。やはり最初は看板メニューの「幻の手羽先」で、ほかにも「秘伝の黒手羽先」、名古屋名物「みそ串カツ」、それと「生ビール中」を注文した。
料理が来る間、店内を観察した。営業がスタートしたばかりなので、まだお客の入りは3割程度で、割と空いている印象。意外だったのは女性比率が高かったことだ。そういえば開店前に並んでいたのも若い女性で、今、私のすぐ左側に座っているのも女性である。
しばらくして「幻の手羽先」がやってきた。初めてなので、どうやって食べるのかわからない。だがそこは安心、目の前に「美味しい食べ方」という解説書が貼ってある。手羽先を手に取り、どの順番で食べると上手に食べられるかを図解されており、私はその方法に従った。
一口食べた。想像よりスパイシーで、京都人の舌には濃いが、ビールが異常に進んでしまいそうな絶妙な味付けがされている。思わず私はジョッキをぐいと傾け、また首を後ろに反らしながら、液体を一気に喉へと流し込んだ。
ぷはーっ!たぶん「幻の手羽先」が2〜3個あれば、ビール1杯がなくなってしまうだろう。
酒量を調整しながら、続けてやってきた「秘伝の黒手羽先」「みそ串カツ」も食べた。比べるとやはり、看板メニューの手羽先が一番好みである。その後、焼きそばも追加、最終的にビールを3杯飲んだ。もう満腹である。
これだけビールが進むとは知らなかった。メニューには味の決め手となる「幻のコショウ」についての紹介があった。いちいち「幻」がつくところが笑えるが、間違いなくこのお酒が進みまくる味こそ「世界の山ちゃん」の躍進を支えていると感じた。
満足した私はお勘定をお願いした。対応したのは店長と思われる男性。少し雑談したが、一時期、創業者の近くで仕事をした経験があるとのことだった。「営業終了後、掃除も一緒に手伝ってくれる優しい方でしたよ」と言っていたのが印象的だった。
店舗に滞在した時間は約1時間。大満足で本店を後にした次第である。