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なぜ、フランスで韓国料理が人気なのか? ブームの背景と今後の可能性に迫る

2024年10月にパリ郊外で開催された欧州最大規模の食品見本市SIAL PARIS(シアル・パリ)」。会場では、日本貿易振興会(JETRO)の出展ゾーンと隣り合Korean Pavilionと銘打たれた展示ゾーンが設置された。ここでは、韓国食品の海外展開を支援する公的機関aTの支援により、韓国から76の事業者が参加し、過去最大となる規模でさまざまな韓国食品が紹介されていた。aTパリ事務所の発表によると、同事務所が開設された14年に比べて、24年SIALにおける韓国の展示スペースは2.5倍拡大したという。韓国料理がなぜ欧州でこれほど人気を集めているのか、その理由と今後の可能性を考察する。※本稿は著者の個人的見解に基づくものであり、所属組織の見解を示すものではない

欧州に浸透する「K-food」とその背景

 近年、フランスをはじめとして欧州全体で韓国料理の認知度が高まっている。従来は中国系や韓国系スーパーマーケット(SM)で販売されていた韓国食品が、大手小売チェーン店でも広く扱われるようになった。とくに「プルコギ」や「ビビンバ」のタレ、インスタントラーメンや「トッポギ」(細長い餅を甘辛いコチュジャンベースのタレに絡めて煮込んだ料理)、スナック菓子など、簡単な調理で味わえる韓国食品の取り扱いが増えている。

 こうした人気の背景には、韓国映画やドラマの食事シーンや、グルメ番組の影響が挙げられる。これらをきっかけに、K-food(韓国料理)に興味を持ち、韓国レストランで実際に料理を食べ、自宅で簡単に調理できる商品を購入することにつながっているようだ。

 パリ市内においても、韓国風の味付けのフライドチキンやトッポギを扱うお店が増え、食のトレンドに敏感な若年層を中心に人気を集めている。ちなみに欧州ではこれまで、餅のような粘りのある食品になじみがなく、苦手に感じる人が多かった。しかし、トッポギをきっかけに、もちもちとした食感を好む人々が増えているそうだ。

 同様に、韓国料理で多用される赤唐辛子の辛さも欧州では一般的ではなかったが、K-foodの流行をきっかけに、辛味の強いインスタントラーメンが少しずつ受け入れられている。こうした“実食”を重ねることによって、人々の食の嗜好の幅が広がる現象が欧州全域で見られるのだ。

フードデリバリーにより喫食機会が増加

韓国料理のテイクアウトメニューが示された看板

 食品宅配サービスを提供する「Uber Eats」では、近年、韓国料理を取り扱う店舗が激増している。これまで日本料理のメニューを提供していた中華レストランが、韓国料理のメニューも取り扱いはじめるケースもあるようだ。

 K-foodの人気上昇を受け、韓国の大手総合食品メーカーCJ社は、英国でデリバリーサービスブランド「Bibigo to go」を立ち上げ、23年から「Uber Eats」や「Deliveroo」などからの受注を開始した。Bibigoブランドの冷凍食品(餃子や焼きおにぎり)は、これまでも韓国系SMで主に販売されていたが、食品宅配サービスへの参画により、韓国料理に馴染みがなかった利用者層に喫食機会が広がることが期待される。

 今年、筆者がSIAL PARISの韓国出展ゾーンに足を運んだ際には、本格的な伝統料理や健康面に訴求する商品よりも、電子レンジで加熱調理するだけで簡単に食べられる商品が目立った。

 たとえば、カップ容器入りトッポギ、常温保存できる容器ご飯やキムチ炒飯、キムチ味カップヌードル、冷凍キンバブ(韓国風海苔巻き)などが挙げられる。また、SMでは、売場で目を引くはっきりとした色使いや、親しみやすいイラストを使用した容器包装デザインが多かった。

仏大手小売チェーンでも広がる韓国料理の取り扱い

 フランスの小売大手カルフールでは、日本を含む世界各国の食品が販売されており、韓国料理の商品は130点にのぼる。カルフール公式チャンネルには、フランスに住む人々には馴染みの薄い外国料理の商品を紹介する動画が公開されている。動画では、2人の若いコメンテーターが、カルフールの店舗で購入した外国料理の商品を実際に食べながら率直な感想を語る。23年9月に公開された韓国料理を特集した動画は、掲載されて以降、これまでに6.8万回以上視聴されている。

 コメンテーターは、美味しいと思った商品には、「指ハート」(K-POPアーティストが流行させたと言われる、親指と人差し指を交差させてハートの形を作るジェスチャー)で反応する。一方でチャプチェの透き通った見た目や弾力のある噛み応えには、不思議な表情で首を傾げて苦手であることを率直な反応で示す。こうした姿勢が、韓国料理を食べたことがない視聴者からの共感や信頼を集めているようだ。

 フランスの冷凍食品専門店ピカールでも、韓国料理の商品が定番化している。24年12月時点で、オンラインストアには、チャプチェ、ビビンバ、ご飯付き鶏プルコギの3種類がラインアップされている。各1食分が5ユーロ台で販売されている。ピカールは、仏において高価格帯の冷凍食品ブランドに位置しており、食のトレンドに敏感な顧客層の期待に応えるべくさまざまな新商品が開発され、キャンペーンに注力している。

 また、ピカールに商品を納入している製造業者にとってピカールとの取引実績は他の流通チャネルへの販路拡大に好影響をもたらす。他の流通チャネルから、「ピカールに納品している商品と同じものが欲しい」との引き合いがあると聞いたことがある。今後、ピカールでの韓国料理の取り扱いがどのように広がっていくのか、注目していきたい。

 本格的な韓国料理はかなり辛味が強いが、フランスで販売されている韓国料理の商品(ピカールに限らず、カルフールやモノプリなど)では、辛さやにんにくの風味が抑えられ、欧州向けにローカライズされた味付けとなっている。辛さが控えめなため、日本人の筆者には、例えばトッポギを口に含んだ瞬間から甘味を強く感じる味に仕上がりとなっていた。このようなわかりやすい味付けは、手軽な大衆食として多くの人々に受け入れられやすいと感じられる。

 精糖工業会がまとめた資料によると、22年の韓国の一人あたりの砂糖消費量は31.0㎏と日本(同15.3kg)の約2倍に達しており、米国(同30.8kg)、EU(同35.1kg)と同水準だという。このような砂糖の使用傾向は、欧州人にも受け入れられやすい韓国料理の味付けの背景にある重要な点のひとつであると考えられる。

日本の食品における新たな可能性

 ここまでフランスでの韓国料理の広がりについて述べてきたが、最後に、日本の食品輸出拡大に向けた示唆について触れたい。

 第一に、映画やドラマといった魅力的なコンテンツの持つ影響力の強さの活用だ。単に食文化を紹介するよりも、映画やドラマの日常的なシーンで食事が映し出されて自然に描かれる方がより多くの視聴者の印象に残り、食への興味を喚起しやすいと言えるだろう。

 実際、日本の漫画をきっかけに、三角形のおにぎりやラーメン、お弁当文化が世界中で広まったという事例がある。今後さらに、世界に誇る日本のコンテンツを食品輸出ビジネスに効果的に活用する方策が求められる。

 第二に、本格的な日本料理だけでなく、レンジ調理や付属のソースを混ぜるだけで完成するような、簡便な調理済み食品の輸出だ。ターゲット層のライフスタイルや嗜好に合わせた価格帯の商品を広く展開していくことが重要だろう。

 これらの取り組みにより、日本発のさまざまなコンテンツとともに、日本の食文化が世界中の人に親しまれることを願っている。