煮込み時間は脅威の10日間……なごやめし老舗で味わう「味噌おでん」

2025/02/07 05:55
森本 守人 (サテライトスコープ代表)
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「なごやめし」というジャンルがある。名古屋エリアで食べられる料理だが、味、見た目が個性的で、食通の心というか、舌をがっちりつかんで離さない魅力がある。今回は名古屋に足を運び、そのひとつとして知られる「味噌おでん」をいただくというお話である。

名古屋で「味噌おでん」をいただく

見た目も個性的な料理

名古屋は、京都からアクセスしやすい都市だ。新幹線で最速34分。JRの在来線だと「京都」駅から「大阪」駅まで30分前後なので、京都人の私にとり和歌山県、大阪府南部へ行くよりも身近な印象がある。

 確かに時間的には近い。しかし料理について言えばまったく別物なのが名古屋だ。

 京都の料理と聞いて、多くの人は和食をイメージするだろう。薄味で、素材の味を生かした調理法が大きな特徴。高級店に行くと、盛り付け、器も凝っており、目で楽しむという側面も持つ。

 対して、名古屋とその近郊エリアで食べられる料理。つまり「なごやめし」で思い浮かべるのは、「あんかけスパゲティ」「手羽先」「味噌煮込みうどん」「エビフライ」など。「ひつまぶし」「名古屋コーチン」はじめ、高級品もあるが、総じて庶民的なものが多い。

エビフライも「なごやめし」のひとつだ

 加えて、見た目も特徴がある。

 たとえば「あんかけスパゲティ」。いろんな種類があるが、一般的なものだと具材に赤いソーセージを使っているのに、とろみのあるあんも同系色。補色として緑のピーマンが少し入るが、全体の色のバランスは赤に押され、ちょっと不思議な配色である。

 また多くの料理で味の決め手になっているのは味噌。大豆と塩だけが原料の「豆味噌」を使っているのも大きなポイントだ。濃厚な味わいの一方、見た目はかなり濃い茶色であるのは興味深い。

 さて今回、向かうのは名古屋市の伏見エリアにある「島正(しましょう)」。なごやめしのうち「味噌おでん」「どて飯」などが有名な人気店である。

 創業は昭和24年(1949年)。検索すると「なごやめし」という言葉が誕生したのが平成13年(2001年)らしい。つまり島正は「なごやめし」が一般的になる50年以上も前から営業している。となると名古屋の味ど真ん中、「元祖なごやめし」と言ってもよい店である。

 最寄りは、「名古屋」駅から地下鉄で1駅の「伏見」駅。京都にも伏見という地名があるので親近感がわく。5番出口から歩くこと約1分、おぉ、店が見えてきたぞ!

最寄りは、名古屋市営地下鉄の伏見駅
駅から徒歩1分の「島正」

一口食べ、ビールでぷはーっ!

 店に到着、時刻は午後445分。営業開始は午後5時だからまだ時間がある。下調べによると、行列ができるらしい。でもこの時点で誰も並んでいない。じっと待つのも退屈なので周辺を歩いた後、再び、店の前に戻ってくることにした。

 時計はちょうど午後5時、私は今、店の前に立っている。もう営業中であることを示す暖簾がかかっている。私は高鳴る胸を押さえながら店内へ入った。店の前にはお客がいなかったので、私が一番乗りである。

 驚いた。というのは1階に20あるカウンター席の約7割がすでに埋まっていたからだ。皆、いつの間に入店したのかは不明だが、店が開く時間をねらって来て、開店と同時に一斉に入ったのだろうか。

午後5時ちょうどに入ると、すでに1階のカウンター席は7割がた埋まっていた
「島正」の創業は、昭和24年。店名は、新国劇の看板役者だった島田正吾に由来する

 案内された席に座り、早速、メニューを見る。だがもう注文する料理は事前にネットで見て決めていた。「どて焼き(味噌おでん)」のうち大根、牛すじ、豆腐、里芋の4品、それに「串カツ」2本、さらに丼物の「どてめし 小」。飲み物は瓶ビールである。

見よ、この真っ黒な「味噌おでん」を!

 最初に来たのは、どて焼き4品。どうです、この見た目。ほぼ真っ黒に近く、京都人の感覚からすれば、色のセンスがもう尋常ではない。

 持って来てくれたおじさんによれば、この大根、10日間も煮込んでいるのだそうだ。10日ですよ、10日!手間暇かけた料理を、いくつも食べられてはたまらない。なので大根は、「お11個まで」とメニューに書いてある。さらに大根を頼むには、4品同時に注文するというルールも設けてある。

 まずは大根、続いて牛すじをいただき、ビールを飲んだ。ぷはーっ!これはうまい。見た目よりも味は濃くなく、食べやすい。そうこうしている間に、「串カツ」がやってきた。もちろんこれもほぼ真っ黒である。一口頬張り、そしてビールを流し込んだ。

「串カツ」も豆味噌で味付けされている

 最後に来たのが「どてめし 小」。上に半熟の卵が乗せてあり、箸で割ると黄身がとろりと流れ出てきた。もうたまりません。一気にかき込み、フィニッシュした。

最後は「どてめし 小」。卵を割ると、黄身がとろりと流れ出てきた

 もうお腹はいっぱいである。お会計をお願いすると、締めて2950円。「なごやめし」を老舗で堪能、大満足した日だった。

記事執筆者

森本 守人 / サテライトスコープ代表

 京都市出身。大手食品メーカーの営業マンとして社会人デビューを果たした後、パン職人、ミュージシャン、会社役員などを経てフリーの文筆家となる。「競争力を生む戦略、組織」をテーマに、流通、製造など、おもにビジネス分野を取材。文筆業以外では政府公認カメラマンとしてゴルバチョフ氏を撮影する。サテライトスコープ代表。「当コーナーは、京都の魅力を体験型レポートで発信します」。

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