煮込み時間は脅威の10日間……なごやめし老舗で味わう「味噌おでん」
「なごやめし」というジャンルがある。名古屋エリアで食べられる料理だが、味、見た目が個性的で、食通の心というか、舌をがっちりつかんで離さない魅力がある。今回は名古屋に足を運び、そのひとつとして知られる「味噌おでん」をいただくというお話である。

見た目も個性的な料理
名古屋は、京都からアクセスしやすい都市だ。新幹線で最速34分。JRの在来線だと「京都」駅から「大阪」駅まで30分前後なので、京都人の私にとり和歌山県、大阪府南部へ行くよりも身近な印象がある。
確かに時間的には近い。しかし料理について言えばまったく別物なのが名古屋だ。
京都の料理と聞いて、多くの人は和食をイメージするだろう。薄味で、素材の味を生かした調理法が大きな特徴。高級店に行くと、盛り付け、器も凝っており、目で楽しむという側面も持つ。
対して、名古屋とその近郊エリアで食べられる料理。つまり「なごやめし」で思い浮かべるのは、「あんかけスパゲティ」「手羽先」「味噌煮込みうどん」「エビフライ」など。「ひつまぶし」「名古屋コーチン」はじめ、高級品もあるが、総じて庶民的なものが多い。

加えて、見た目も特徴がある。
たとえば「あんかけスパゲティ」。いろんな種類があるが、一般的なものだと具材に赤いソーセージを使っているのに、とろみのある“あん”も同系色。補色として緑のピーマンが少し入るが、全体の色のバランスは赤に押され、ちょっと不思議な配色である。
また多くの料理で味の決め手になっているのは味噌。大豆と塩だけが原料の「豆味噌」を使っているのも大きなポイントだ。濃厚な味わいの一方、見た目はかなり濃い茶色であるのは興味深い。
さて今回、向かうのは名古屋市の伏見エリアにある「島正(しましょう)」。なごやめしのうち「味噌おでん」「どて飯」などが有名な人気店である。
創業は昭和24年(1949年)。検索すると「なごやめし」という言葉が誕生したのが平成13年(2001年)らしい。つまり島正は「なごやめし」が一般的になる50年以上も前から営業している。となると名古屋の味ど真ん中、「元祖なごやめし」と言ってもよい店である。
最寄りは、「名古屋」駅から地下鉄で1駅の「伏見」駅。京都にも伏見という地名があるので親近感がわく。5番出口から歩くこと約1分、おぉ、店が見えてきたぞ!


一口食べ、ビールでぷはーっ!
店に到着、時刻は午後4時45分。営業開始は午後5時だからまだ時間がある。下調べによると、行列ができるらしい。でもこの時点で誰も並んでいない。じっと待つのも退屈なので周辺を歩いた後、再び、店の前に戻ってくることにした。
時計はちょうど午後5時、私は今、店の前に立っている。もう営業中であることを示す暖簾がかかっている。私は高鳴る胸を押さえながら店内へ入った。店の前にはお客がいなかったので、私が一番乗りである。
驚いた。というのは1階に20あるカウンター席の約7割がすでに埋まっていたからだ。皆、いつの間に入店したのかは不明だが、店が開く時間をねらって来て、開店と同時に一斉に入ったのだろうか。


案内された席に座り、早速、メニューを見る。だがもう注文する料理は事前にネットで見て決めていた。「どて焼き(味噌おでん)」のうち大根、牛すじ、豆腐、里芋の4品、それに「串カツ」2本、さらに丼物の「どてめし 小」。飲み物は瓶ビールである。

最初に来たのは、どて焼き4品。どうです、この見た目。ほぼ真っ黒に近く、京都人の感覚からすれば、色のセンスがもう尋常ではない。
持って来てくれたおじさんによれば、この大根、10日間も煮込んでいるのだそうだ。10日ですよ、10日!手間暇かけた料理を、いくつも食べられてはたまらない。なので大根は、「お1人1個まで」とメニューに書いてある。さらに大根を頼むには、4品同時に注文するというルールも設けてある。
まずは大根、続いて牛すじをいただき、ビールを飲んだ。ぷはーっ!これはうまい。見た目よりも味は濃くなく、食べやすい。そうこうしている間に、「串カツ」がやってきた。もちろんこれもほぼ真っ黒である。一口頬張り、そしてビールを流し込んだ。

最後に来たのが「どてめし 小」。上に半熟の卵が乗せてあり、箸で割ると黄身がとろりと流れ出てきた。もうたまりません。一気にかき込み、フィニッシュした。

もうお腹はいっぱいである。お会計をお願いすると、締めて2950円。「なごやめし」を老舗で堪能、大満足した日だった。
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