アングル:戻り鈍い個人消費に新型肺炎のリスク、政府・日銀の判断に逆風か

ロイター
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東京・銀座
1月29日、消費増税後、落ち込みが続く個人消費に新たな下押し要因が浮上している。拡大を続ける新型コロナウイルスで消費者心理が悪化し、買い控えが強まるリスクだ。写真は2017年2月、東京・銀座で撮影(2020年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 29日 ロイター] – 消費増税後、落ち込みが続く個人消費に新たな下押し要因が浮上している。拡大を続ける新型コロナウイルスで消費者心理が悪化し、買い控えが強まるリスクだ。1─3月期の消費の戻りはさらに鈍くなる可能性があり、個人消費は増加傾向とする政府・日銀の判断には逆風となりそうだ。エコノミストからは2014年の前回消費増税時に節約志向が強まって以降、消費の基調は回復していない可能性があるとの指摘も出ている。

<百貨店、インバウンド消費の減少を懸念>

三越伊勢丹の広報担当者は「春節時期で比較すると、今のところ(売り上げは)前年と同程度で推移しているが、これから落ち込んでいくかもしれない」と話す。今年は春節が1月24日から始まったが、同時期に新型肺炎の拡大が加速し始めた。同社の基幹店である新宿、銀座、日本橋の3店はインバウンド消費のうち約7割が中国人観光客だ。

J.フロントリテイリングの広報担当者も「中国人ツアー客のキャンセルが増えれば、売り上げに影響してくるかもしれない」と話す。新型肺炎の拡大により、日本の消費者が銀座や新宿など中国人観光客が多く訪れる地域を避けたり、外出を控えたりする傾向が強まれば、すでに弱い国内消費にさらにネガティブインパクトをもたらす可能性がある。

百貨店売上高は、昨年10月の消費税率引き上げ後、反動減が続いていた。三越伊勢丹は「駆け込みも反動減もほぼ前回増税時と変わらない規模で発生し、増税後の売り上げ推移も前回増税時とほぼ同じ。当初の予想より(増税の影響は)大きかった」という。これは、政府・日銀が「今回の消費税率引き上げ前後の需要変動は前回増税時と比べて抑制的だった」との見方を示しているのと対照的だ。

<増税後の消費、政策で明暗鮮明>

増税後の状況を業種別でみると、政府の政策の恩恵を受けたところと、そうでないところの明暗がはっきりしている。日本自動車販売協会連合会が公表したデータによると、2019年10─12月期の普通乗用車・小型乗用車の販売台数は、前年比マイナスとなった。同連合会が6日に公表したデータによると、2019年の新車販売台数は前年比1.5%減の519.5万台だった。10月に登録車の自動車減税が恒久的となるなど政府による対応措置が行われたが、10月は台風被害も重なり、自動車販売には打撃となったようだ。

家電量販店大手5社の10月以降の売上高をみると、10─12月期はいずれも前年同期比マイナスが続いている。ウインドウズ7のサポート終了に伴うPC関連や、テレビは堅調だったが、それ以外の耐久財の消費の戻りは鈍い状況が続いている。

一方、スーパー・コンビニの売り上げは増税後も比較的堅調に推移している。

日本フランチャイズチェーン協会によると、10─12月期のコンビニ売上高(全店ベース)は前年同期比でプラスとなった。キャッシュレス還元の影響で客単価が伸びたことや、サラダ、調理麵、冷凍食品などいわゆる中食需要が伸びており、増税後も好調と言えそうだ。

日本スーパーマーケット協会によると、増税後のスーパー売上高(全店ベース)は10─12月期は前年同期比でほぼ横ばいとなっている。

軽減税率の対象となった食料品を扱うスーパー、コンビニでは売り上げが堅調に推移しているが、自動車、家電量販店など耐久財を扱う業種では駆け込み需要の反動減からの持ち直しが鈍い状況が続く。

<1─3月期の消費予測、「回復は緩やか」>

SMBC日興証券の宮前耕也日本担当シニアエコノミストは「1-3月期の消費の戻りはかなり緩やかになるだろう」と予測する。2019年10月に増税後の反動減で落ち込んだ分は緩やかに反発するが、依然として反発力は鈍く、増税前の水準に戻るにはかなり時間がかかると指摘する。

増税が2%だったことに加え、ポイント還元や幼児教育の無償化、軽減税率の導入などを考慮すると、消費支出への影響は大きかったと言えそうだ。6月にはポイント還元などの平準化策も終了する。「(6月に)もう一段の消費抑制が見込まれる点には注意しておく必要がある」と大和総研の小林俊介シニアエコノミストは指摘した。

これに対し、日銀は1月の展望リポートで「個人消費は、消費税率の引き上げなどの影響が次第に減衰し、雇用・所得環境の改善が続くもとで、緩やかな増加傾向をたどるとみられる」という判断を維持している。

1月15日の日銀支店長会見では「百貨店の初売りが活況で、高額の体験型福袋の売れ行きも好調だった」との声が各支店長から聞かれた。しかし、日銀内では、今回の年末年始は日並びがよく帰省した人が多かったために地方の百貨店の客足が伸びたにすぎず、マクロで見て消費が盛り上がっているとは言えないとの見方が出ている。黒字リストラの増加や根強い節約志向もあり、個人消費の先行は予断を許さないとの声もある。

<長期間にわたり消費性向の低下継続>

SMBC日興証券の宮前氏は「2014年春の消費増税引き上げ時から消費の基調が弱くなり、消費性向の低下が長期にわたって続いている」と指摘する。消費は賃金と雇用動向に左右されるが、実質雇用者報酬が伸びている割には、実質ベースの消費が伸び悩んでいるのが実情だ。

宮前氏は、消費性向が低下した大きな要因は、2014年増税時の物価上昇だとみる。食料品を中心に物価が上がり、コアCPIは約3%上昇。「毎日買うものだけに、消費者のショックが大きく、節約志向が強まったのではないか」という。将来不安や生活防衛のため、消費性向にこれまであまり変化が見られなかった若年層でも消費支出の減少が見られ、「物価が上がれば消費は伸びる」というリフレ派のセオリーとは全く逆の現象が起きているという。

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