京都人はよくパンを食べる。消費量、額とも全国上位で、今も新店や話題店が続々と登場している。ビジネスの観点からすると競争が激しいことを意味するが、そうした環境下でも昔ながらの商品でファンをつかむベーカリーショップがある。人気の秘密を確認するため、私は現地へ向かった。
高校時代、あの女性漫才師も通っていた
阪急電鉄京都線の「大宮」駅──。大阪から京都に来る場合、古くは同駅止まりだったことを知っている人は少なくなりつつある。それもそのはず、現在のように河原町まで延伸されたのは1963年(昭和38年)のことだからだ。歴史を振り返りながら駅舎を見ると、現在も外観はどことなく終着駅の雰囲気を感じるのは私だけだろうか。
終着ともなると、駅周辺は今以上に賑わっていたと推測できる。しかし今は昔、かつて大いに栄えていたであろうことがわかる、やや古びた、味わいのある街並みが大宮エリアの特徴であり、今日も人々を惹きつける魅力である。
その大宮駅から南へ500m、松原大宮の交差点を東へ100m進んだ南側に立地するのがベーカリーショップ「まるき製パン所」(京都市下京区)だ。木造家屋の1階が店舗になっており、売場はわずか数坪。5人も入れば、窮屈に感じるほどの狭小空間だ。
それでも店には多くのファンがいる。前に立ち、しばらく観察していると、お客がひっきりなしにやってくる。徒歩、自転車が中心だが、中にはオートバイ、さらに車を使って遠くから来店する人も目立つ。
メーンの商品は、長細いパンに各種具材を入れたコッペパンサンド。特別な何かを挟んでいるわけではなく、ハムやベーコン、ウインナー、コロッケなど、中身は昔ながらのごく素朴なものが中心である。
創業はまだ戦後の香りが残る1947年(昭和22年)。以来、80年近くの長い間、地域に密着したパン屋さんとして親しまれてきた。女性漫才コンビのレジェンド、今いくよ・くるよのお二人が高校時代、通った店としても知られる。
なぜこの店が、激戦区、京都で支持されるのか。理由を探るため、早速、現地に向かった。
私が店を訪れたのは午後1時過ぎの、ピークタイムを過ぎた頃。にもかかわらず、数組のお客がおり、店内に入るのは少し待つ必要があった。
数分して店内へ。人気商品を店員に聞くとあれこれ教えてくれた。それを参考に、私は3種類のパン、そしてドリンクを買い、店外に出た。振り返ると、また新しいお客がまた来て、買い物をしている。途切れない客足。こんな商売だと楽しいだろうなと思った。
歴史ある壬生寺でパンを食べる
パンを入れた紙袋を携え、歩くこと約10分。私は壬生(みぶ)寺に到着した。
壬生エリアには幕末、新撰組の駐屯地があった。この壬生寺も、新撰組が訓練場として使用していたと伝わる。境内東方にある池の中の島は「壬生塚」と呼ばれ、幕末の新撰組隊士の墓がある。歴史ファンには一度は訪れてほしい場所だ。
私はこの寺で、同じく歴史ある、まるき製パン所の各種サンドをいただこうと急に思いついたのだ。
境内のベンチに腰掛け、最初に取り出したのは「ウインナードッグ」。さっそく頬張る。パンにカレー風味に炒めたキャベツとソーセージが入っているのだが、たったこれだけでおいしいんだわ、これが。
次は「サラダロール」である。商品のPOPには「新鮮なレタス・トマト・きゅうりとたっぷりのポテトサラダをはさみました」とあった。一口食べる。うん、うまい。いやぁ、感心します。
ラストは「オムレツロール」。多めのキャベツに、小ぶりのオムレツが入っているだけの簡単な構成。ほぼ予想通りの味なのだけど、とても美味である。
実は後日、私はまるき製パン所を再訪問している。なぜなら壬生寺を訪れた日は、人気アイテムを購入できなかったからだ。行った時間が悪く、すでに売り切れていた。店員のお姉さんに売場に並ぶ時間を確認、日をあらためてリベンジを果たそうと考えた次第である。
購入できなかった、人気アイテムのひとつは「ハムロール」。キャベツとハムが入っているだけなのだが、具材とパンの組み合わせが絶妙で、いくらでも食べられるおいしさだ。
2つめは「ニューバード」。カレー味のドーナツ生地に厚切りハムを挟み、揚げてある。これは、確か今いくよ・くるよさんも、おすすめしていた記憶がある。
断面写真をアップするが、ここのパンは、前述の通り、非常に素朴である点で共通する。変な言い方だけど、他の店が模倣できないか?と言われれば、マネできそうな気もする。それでも、不思議と買って食べたくなるのが、このパンの魅力と言える。なぜなのだろうか。
断面を見ても、解明できないおいしさの秘密。シンプルなだけに、そこにパンづくりの奥深さがあるのだろう。最新のベーカリーショップもいいけれど、京都に来た時はぜひ一度、まるき製パン所に立ち寄り、味を確かめてほしい。